◇故障続くもチーム支柱に
さいたま市の埼玉スタジアムで10日、行われた全国高校サッカー選手権。準決勝で敗れた日大藤沢高の吉野敬主将(18)は一度もピッチに立つことなく、舞台を去った。度重なる故障に苦しんだキャプテン。しかし、最後まで大きな声をグラウンドに飛ばし、仲間とともに戦い続けた。
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日大藤沢中の生徒も含む1200人もの大応援団が詰め掛けたこの日。スクールカラーのピンクに染まった客席に負けじと、ベンチから声を送った。「これで高校サッカーが終わるんだな」。試合終了の笛が鳴ると、泣き崩れる下級生を優しく抱きかかえた。
思えば、けがに泣かされた高校生活だった。入学間もない1年春の練習中に左眼を負傷し、2年時の5月には左手首を骨折。昨年7月には走り込みで左足首を疲労骨折し、全治2カ月と診断された。
今回の全国選手権の出場を懸けた昨年11月の県予選決勝に満を持して復帰して勝利をつかむも、その一週間後に腰の骨を骨折。インフルエンザにもかかってしまった。
「自分はキャプテンなのに何やってるんだろう。そもそも俺ってチームに必要なのかな」。仕事の多くは水くみなどのサポートばかりだった。プレーで引っ張ることができず、何度も心は折れそうだった。それでも支えてきた自負はある。
昨年6月の県高校総体で敗退した後だった。「嫌われ者になってもいい。チームを一つにするために厳しくやりたい」と佐藤輝勝監督(36)に直訴した。アップ中の私語を禁止にするなど厳しく仲間に接してチームをまとめ、7大会ぶりに出場した全国選手権で創部初の4強入り。この冬の快進撃に導いた。
試合後のロッカールーム。「本当によく頑張ってきたな。3年間ありがとう」。佐藤監督からねぎらいの言葉を掛けられると、涙が止まらなかった。「仲間がここまで連れてきてくれた。大変だったけど、キャプテンをやってきて本当によかった」。ぬれた頬を拭い、笑顔で言った。
【神奈川新聞】