サッカーの第96回全国高校選手権県2次予選最終日は3日、等々力陸上競技場で決勝が行われ、桐蔭学園が桐光学園を0-0のPK戦の末に下し、2003年以来となる14年ぶり9度目の優勝を飾った。
桐蔭は後半28分に主将のDF原川凌太朗(3年)がこの日2度目の警告で退場となったが、一丸の守備で延長まで無失点に抑え、迎えたPK戦では5人全員が決めて接戦をものにした。
本大会は12月30日に開幕し、来年1月8日の決勝(埼玉スタジアム)まで熱戦を繰り広げる。組み合わせ抽選会はすでに行われており、桐蔭は来年1月2日に同競技場で奈良代表の一条(試合開始午後0時5分)と対戦する。
守備に専念 迷いなく
どんな逆境にも、桐蔭学園は屈しなかった。耐えて耐えて、耐え抜いた先に、歓喜の瞬間が待っていた。
予期せぬアクシデントは、両チーム無得点の後半28分。自陣左サイドでスライディングした主将のDF原川が2度目の警告で退場となり、10人での戦いを強いられた。
だが、勝利への執念を見せたのはここからだ。代わりにキャプテンマークを巻いた副主将のMF金子は「正直、動揺したけど、やるしかない」と奮起。夏まで守備陣を率いていたもう一人の副主将・FW森山が原川のポジションを埋めた。
その上で「不用意に攻めてカウンターを受けたら終わり。ここは守備に専念して、100分間耐え続けよう」(DF岩本)と意思統一。自陣深く攻め込まれてもこらえ続け、伝統のパスサッカーで反撃も試みた。
ここまで4戦で無失点試合がなく、守備の安定が課題だったが、決勝の大舞台を10人で守り切った選手たち。PK戦では5人全員が迷いなくネットを揺らし、14年ぶりの全国切符をもぎ取った。
「今まで苦しいことを乗り越えてきた。その苦しさが糧になって、きょうを乗り越えられた。全国でも今まで支えてくれた人たちへの感謝を込めて、全力でプレーする」と金子。復権を果たした名門が、ついに全国へその名をとどろかせる。
仲間を信じ祈り続け
「自分が引っ張っていかないといけないのに、一番大事な時にやってしまった」。0-0の後半28分にレッドカードを突きつけられた主将原川は、あふれる涙に両手で顔を押さえながらピッチを去った。
ロッカールームにこだまする、どちらのチームのものかも分からない歓声だけが試合状況を推測する唯一の手段だった。「ただただ、祈るだけだった」
だが、その瞬間は突然訪れた。ひときわ大きな歓声の後、右膝の手術のため今大会は裏方でチームを支えていた10番千葉が飛び込んできた。「勝ったぞ!」。原川はその場に泣き崩れた。悔し涙が、歓喜の涙に変わった。
険しい道のりだった。部の方針で1、2年生のチームが県U-18リーグ1部で戦い、3年生は“Bチーム”として同3部に所属。強豪との実戦経験を積めず、日々の練習も満足にグラウンドを使えなかった逆境をばねに、最後の選手権を勝ち上がってきた。
蓮見理志監督代行(34)は「原川はよくチームを一つにまとめてくれた」と感無量の表情。キャプテンが続ける。「みんなで支え合ってここまで来られた。本当にこのチームは宝物です」。困難を乗り越えた仲間たちと見る頂からの景色は、何よりも特別だった。
桐光 猛攻も1点遠く
キャプテンのシュートは無情にも、ゴールの枠の外へ飛んでいった。外せば終わりのPK戦、5人目。桐光学園の田中雄はピッチに突っ伏した。
3連覇を逃した鈴木勝大監督(40)は当然、主将を責めたりはしない。「これがフットボール。メッシだってPKを外す。それよりも(チームとして)その前が問題」。押しながらも得点を奪えなかったゲーム自体に、敗因を見る。
後半28分に相手DFが退場した後は一方的に攻め続けた。サイド攻撃で相手を引き出してフィニッシュにつなげるプランを描いたが、準々決勝から3試合連続となる延長に入っても決定機をつくれない。
タクトを振るった田中雄は、「ラストパスやクロスの質。細かい部分が足りなかった」。単純にロングボールを前線に送っても、シュートにつながるような幸運なルーズボールは訪れなかった。
そしてPK戦。完全に「1点もの」の1対1を2度も防ぎ、無失点の立役者になったGK丸山に期待がかかったが、桐蔭の正確なシュートを止めることはできなかった。
「ピンチを救うというキーパーの仕事はできたが、PKでは今まで通りのことができなかった」。うつむく2年生は、「3年生のためにもこの経験を生かさないといけない」と絞り出した。