
「私はその辺の雑草が少し伸びたくらい」。青木智美(21)=法大、アリーナつきみ野SC=はあっけらかんと笑う。ただ、潤沢に水を与えられ、光を浴びて育ったわけではないからこそ茎はしなやかに、強く育つ。
3歳で水泳を始めたときから自宅近くのアリーナつきみ野SC一筋。25メートルのコースが5レーンのクラブは一般会員も交わる。青木の練習時間にも中学生から社会人まで多くのスイマーがひしめく。
「練習環境はいいとは言い切れないけど短水路でもできることがある。そこで結果を残せて他の子たちの励みにはなったかな」。そう言ってまた笑い、「人数が多いと波が立つ。それでも自分の泳ぎができる。それが自分の強み」と胸を張る。
神奈川総合高への進学を決めたのも青木らしい理由がある。「中学時代に目立った成績もなかったので私学に行ったら押しつぶされちゃうんじゃないかなと思った」
1歳下の五十嵐千尋(21)=日体大=は中学、高校時代から世界で戦ってきた。同じ大学4年生年代は日の丸の看板が集う。「エリートは萩野君だったり瀬戸君だったり。なんでこの世代に生まれたのかななんて思ったこともあった」
初めて五輪を意識
初めて五輪を意識できたのは昨夏の世界選手権の800メートルリレーで7位に入り、日本の出場枠獲得に貢献してからだ。それまでの道のりは劇的なものではない。
「何が得意とか強みはない。誰も五輪選手になるとは思っていなかった」。競泳を始めたころから見守る萱原茂樹コーチ(42)は苦笑する。だが、こう付け加える。「一つ一つの課題を見つけるのがうまい。その課題を明確にした上でクリアするためにとことん努力する」
全国中学校大会、全国高校総体、日本選手権…。各年代でトップスイマーがいた。世界選手権でも高揚感とは裏腹な感情を抱いた。
「自分で思い描いたレースができなくて悔しいという思いが一番強かった。この悔しさを五輪で晴らすため、もっと強くならないといけないと思った」
目の前に壁があっても腐ることはなかった。「私たちがここを強化したいと思っていることに対して『私もそう思っていた』と返ってくる」と萱原コーチ。地に根を張り、自他の違いを客観的に分析してきた。
リレーメンバーでは最年長。高校生の池江璃花子(ルネサンス亀戸)、持田早智(ルネサンス幕張)に「若さもあってかわいいけどジェネレーションギャップも感じる」と姉のような目線を向け、「しっかりしているので頼れる後輩」という五十嵐とともにチームを引っ張る。
「黄金世代と言われても自分は結果がでなかった。でも、やっとその一員になれたかな」。チャレンジャーは日の当たる場所の心地よさを知った。「去年出せなかった日本新を出して、『良い夏だった』と言えるようにしたい」。持てる力を全てぶつけるだけだ。
=おわり
あおき・ともみ 競泳女子日本代表。アリーナつきみ野所属。南林間中-神奈川総合高-法大4年。高校3年時の全国総体100メートル自由形で6位入賞。法大2年時の2014年にはジャパンオープン200メートル自由形で3位。今年4月の日本選手権200メートル自由形で自己ベストを更新する1分58秒80で4位となり、五輪メンバー入りを決めた。リオデジャネイロ五輪は800メートルリレーに出場。大和市出身。164センチ、56キロ。21歳。