一昨年に休部となった日産自動車陸上部で11年間活躍した久保健二さん(35)が、ランニング関連のイベント企画などを行うNPO法人でコーチとして、第二の人生を始めている。不況の波にのまれる形でアスリートの道は断念したが、「これまでの経験をいろいろな方のために役立てることができれば」と意欲的だ。
「ここに来て本当によかったと思っている」。1月16日、横浜市港北区の新横浜公園で指導を終えた久保さんの表情からは、充実感にあふれた日々がうかがえた。
昨年4月に加入した「ランニング・デポ」(山本正彦代表)は、イベントの企画・運営などランニングに関することを専門に、コーチの派遣も行っているNPO法人。副理事長の山崎浩二さんも日産陸上部出身だ。
◆素晴らしさ実感
2年ほど前。休部により社業に復帰してオフィス勤務となった久保さんは、次から次へと壁にぶつかった。そんな仕事が思うように運ばないとき、「走ることが(心の)助けになった」。競技を離れたからこそ、走ることの素晴らしさをあらためて実感した。
中学から社会人まで続けてきた陸上競技。拓大では3年、4年で箱根駅伝に出場。元日の全日本実業団駅伝には7度も出場した。久保さんは、長くトップ選手として活躍してきた経験を「生かしたい」という気持ちで、NPO法人への転職を決断。収入は激減したというが、日産という一流企業を辞めることに「迷いはなかった」。
昨今のランニングブームで、街では多くの市民ランナーを見掛ける。「またランニングの仕事に携わることになり、仲間と培ってきた経験やノウハウをたくさんの人へ伝える場ができる」。ひたすらタイムを追い求め、自らと向き合った選手時代とは違い、「走りを通してコミュニティーづくりにも貢献したい」と夢が広がっている。
今では、週5日のコーチ業が生活の中心。以前は人前で話せなかったという性格も変化し、「顔つきが変わった」と言われるようになった。「自信を持って生きていきたい。仕事が楽しいと思えることに感謝している」と笑う。
最近は、社業に復帰している日産時代の後輩、佐々木誠さん(28)も勤務の合間にボランティアコーチとして加わるようになった。「日産時代の付き合いは終わっていない。休部があったから、今がある」とさえ思えるようになったという。
◆置き去りのたすき
今月29日には、藤沢から芦ノ湖までの約57キロを走る「ウルトラマラソン」を企画している。久保さんが拓大3年で初めて走った箱根駅伝の4区(平塚―小田原)もコースの一部だ。
その年、13年ぶりに箱根出場を果たした拓大は、早くも3区で繰り上げスタートに。久保さんは繰り上げのたすきを着けて力走したが、5区の走者は別に用意された母校のたすきを着けて待ち構え、久保さんが必死に運んだたすきは道端に投げ捨てられた。必要ないのは分かっている。だが…。
あれから14年。「私のたすきはずっと小田原に置き去りのまま」と久保さん。ウルトラマラソンでは、そんな自らの思いも伝えながら、共に走ろうと考えている。
◇
「ランニング・デポ」への問い合わせはメールinfo@run-depot.jpまたはファクス045(303)2001。
【】