日大藤沢高陸上部でコーチを務めて2年目、小林直己は本気で陸上に向き合っていた頃の自分を取り戻し、大学を進学することを決断した。
「最高の指導者の下でどれだけできるか挑戦したい。これを逃したら、もうチャンスは二度と来ない」。頭に浮かんだのは、1991年の日本選手権男子400メートルで44秒78を出し、いまだ破られていない日本記録を持つ高野進(54)。日本の第一人者が陸上部監督として教えている東海大しかなかった。
コンピューター関連の職に就いていた経験もあり、小林は工学部を志望し、自己推薦制度で合格を果たした。清掃業のアルバイトで学費を賄いながら、念願だった高野の教えの下でトレーニングを開始した。
入学前に「やる気だけはあります。でも、お金はありません」とあいさつに訪れていた、その年に23歳になる新入生を、高野は記憶の片隅ではあったが、以前から知っていたという。