
レスリングの全日本選抜選手権(19~21日、東京・代々木第二体育館)で、女子53キロ級の浜田千穂(クリナップ)=川崎市高津区出身=が五輪3連覇中の絶対女王、吉田沙保里(ALSOK)の壁に挑む。昨年12月の全日本選手権決勝で完敗。世界選手権(9月・米ラスベガス)の国内代表権を懸け、背水の陣で臨む22歳は「オリンピック前の最後のチャンス。勝つことが最低条件」と限界突破に強い覚悟を示している。
あの悔しさはもう味わいたくはない。昨年12月の全日本選手権。決勝のマットに上がった浜田は2年連続で吉田の前に屈した。
わずか開始53秒のフォール負け。大会直前に交通事故で左膝を負傷するアクシデントに見舞われながらも仲間に支えられて臨んだが、現実は甘くなかった。「完全な練習不足です」。浜田は涙を糧にここまで練習に励んできた。
ことし3月にロシアのサンクトペテルブルグで行われた国別対抗戦、ワールドカップ(W杯)では53キロ級に出場。3戦全勝で予選を勝ち上がり、決勝では地元ロシアの選手に4-3で逆転勝ちし、日本の2連覇に貢献した。左膝のけがが完治しない中、55キロ級から階級を変更して初めての国際大会で自信を手にした。
「先に点数を取られても、焦らずに取りにいけた。これまで戦ったことのない相手が多かったけど、53キロ級でも勝てると分かって不安も少しなくなりました」
この春には大学を卒業し、社会人生活をスタート。仕事の傍ら子どもたちのレスリング教室に参加し「自分が結果を残すことでたくさんの人に喜んでもらいたい」と気持ちを新たにした。現在はけがも癒え、減量も順調にこなすなどコンディションは上々。心技体そろって雪辱の舞台へと向かう。
今回の全日本選抜選手権は世界選手権の代表選考会を兼ねており、その世界選手権では五輪の代表の座が懸かる。五輪実施階級でメダルを獲得できれば、来年のリオデジャネイロ五輪代表に実質内定する仕組みだ。
女子は全日本選手権と今回の全日本選抜選手権の2大会などを参考に世界選手権の代表を選ぶ。そのため、たとえ浜田が吉田を破っても世界選手権の切符をつかめるかは微妙だ。
しかし、無敵を誇る吉田を倒さずして五輪への道は開けない。「守備がうまいので前回みたいに不用意にタックルに入っても返される。体力は自分の方があると思う。1ラウンドからどんどんいって、6分間の中でどこでポイントを取るのかを見極めていきたい」
世界選手権への派遣選手は1枠のみだ。「完璧に勝てば文句は言われない。負けたら何もないので、勝つのみです。ドキドキしますね」。決戦は21日。必ず女王を止めてみせる。
◆内容も問われる吉田
女子の有力選手はいずれも揺るぎない。五輪4連覇を目指す53キロ級の吉田沙保里と58キロ級の伊調馨(以上ALSOK)、世界選手権48キロ級で2連覇中の登坂絵莉(至学館大)、昨年の世界選手権69キロ級で2位の土性沙羅(至学館大)は内容も問われる。故障から回復した53キロ級で浜田(クリナップ)は吉田の牙城を崩せるか。
男子フリースタイルの57キロ級は、昨年の全日本選手権王者の森下史崇(ぼてぢゅう&ボムス)と、昨年の世界選手権代表の高橋侑希(山梨学院大)、ロンドン五輪55キロ級銅メダルの湯元進一(自衛隊)を軸にハイレベルな争いとなる。74キロ級は昨年の世界選手権2位の高谷惣亮(ALSOK)が強い。
グレコローマンスタイル59キロ級は、昨年の仁川アジア大会覇者の長谷川恒平(青学大職)を、昨年の世界選手権代表、倉本一真(自衛隊)が追う。同66キロ級はロンドン五輪60キロ級銅メダルの松本隆太郎(日体大職)に、伸び盛りの泉武志(一宮グループ)音泉秀幸(ALSOK)らが挑む。
◆レスリングの代表選考 9月の世界選手権(米ラスベガス)代表は、男子は昨年12月の全日本選手権優勝者が、この全日本選抜も優勝すれば代表に決定。優勝者が異なれば、2人でプレーオフを実施。女子は2大会などを参考に、強化委員会が選定する。
世界選手権の五輪実施階級でメダルを獲得した選手は、ことし12月の全日本選手権に出場すれば、来年のリオデジャネイロ五輪代表に内定する。
