
2020年東京五輪のセーリング競技会場が江の島(藤沢市)に決まった。日本セーリング連盟元事務局長で、競技の普及などを支えてきた武村洋一さん(81)=横須賀市三春町=は「県民の一人としてうれしい。地元から世界に通用する選手が出てきてほしい」と大会を心待ちにしている。
幼少期から父が所有するヨットに乗るなど海に親しんでいた武村さんは、旧制横須賀中学校から早稲田大学高等学院へ進学。早大時代はヨット部に所属し、全日本インカレで優勝。1952年の東北3県国体では、2人乗りのスナイプ級で頂点に輝いた。卒業後は外洋ヨット界に転じ、世界最高峰の国際ヨットレース「アメリカズカップ」に参戦した。
64年の東京五輪当時の様子は今も覚えている。「島の一部を埋め立ててヨットハーバーを造り、木製だった江の島の橋を自動車が通れるように造り替えるなど、インフラが整っていった」と五輪効果を肌で感じた。ただ、選手としての出場を夢見たことはなかった。「お金もない学生時代は遠い世界の出来事で、社会人になったら仕事で忙しかった」と、華やかなスポーツの祭典を横目で眺めた。
それでも海との付き合いは続き、2000年のシドニー五輪にはチームスタッフとして帯同、01年から08年まで日本セーリング連盟事務局長を務めた。
江の島が再びセーリング競技会場になった。武村さんは「『ジャパン、セーリング、エノシマ』。海外のセーラーにとって、日本といえば江の島というイメージがある。前回の東京五輪以降も数々の国際レースを行い、日本の中心になった。その遺産と知名度を生かした関係者の努力は大きい」と喜ぶ。
一方で、ヨット界を熟知しているからこそ「心配もある」。海水浴客などで混み合う夏季は周辺道路の渋滞が予想される。さらに漁業権の補償やヨットハーバーに停泊する契約ヨットの移動など競技運営面だけでなく、地元住民への配慮の必要性を強調する。
神奈川は、12年ロンドン五輪で代表9選手全員が葉山や江の島、津久井浜海岸などを活動拠点とした「セーリング王国」。今なおヨットに乗る武村さんは熱気の再来に心を躍らせる。「金メダルに輝く勝者は1人しかいないが、一生懸命戦ってほしい。良い風が吹くよう、祈っている」