
高校生活を無敗で終えた古谷拓夢(18)=早大=は今、世界トップ水準へのモデルチェンジを図っている。
スタートから1台目までの歩数を8歩から7歩に少なくしようとしている。「世界陸上のファイナリストは8人中7人が7歩。日本でもトップは7歩になってきているし、世界の主流になっている」
言葉にすればたやすそうだが、この1歩を減らすのは至難の業だ。「1歩当たり(の歩幅を)20~30センチ増やしていかないといけないので技術的には難しい。ただ、実際7歩で跳んでいる人と走ると、1台目を跳んでからの加速が全然違う」。世界の走りを肌で知っているからこそ、その必要性を感じている。
2013年、ウクライナ。400メートル障害で4位入賞を果たした世界ユースで、横に居並んだのは世界のトラックを席巻する米国やジャマイカのランナーたちだった。「まさにテレビで見ていた世界。体格も良くてフォームもいい選手がいて驚いたし、純粋に勝負したいと思った」
当時の興奮とは裏腹に自身が背負う日の丸に対して言及するとき、表情は引き締まる。「堂々と走りたいけど日本代表になるにはまだ厳しい。日の丸を付けただけで終わりたくはない」
最も間近で見てきた両親は、愛息を優しく見守っている。「筋肉が柔らかい。ぐっと力が入ったらかちかちだけど、抜いたときは弾力がある」。父幸明さん(53)は息子へのマッサージを通して会話してきた。
母直美さん(50)もほほ笑む。「オンとオフがはっきりしているというか、競技場以外ではオーラがない。居間でずっとゲームしているし、本当にこの子が速いのかなって」
家族旅行は小学校6年の頃が最後。ドライブは学校や治療院への送り迎えが専らだった。昨夏のインターハイも車で大分まで駆け付けた。両親の願いは一つ。「ここまで来たらもう後には引けない。一つ一つ階段を登って五輪で決勝まで行ってほしい」。その期待は決して過度なものではない。
春から早大に進学し、より科学的に、より高次元でハードルと向き合う。18歳の若武者はコンマ数秒の世界を埋める旅に出る。
自身の持つ高校記録である110メートル障害のベストタイムは13秒83。国際陸連(IAAF)が今月15日に発表した来年のリオデジャネイロ五輪の参加標準記録、13秒47には大きな差がある。「タイムはまだまだ遠い。国際経験もまだ足りないし、海外の選手と走りたい」
視線はもちろん5年後の大舞台に向く。「壁にぶつかったりもあると思うけど、日本記録の13秒39を更新しないと世界と戦えない。そういう選手に5年後にはなっていたい」。必ず未来へとつながる道を切り拓(ひら)く。
=おわり