
ナビスコ杯準決勝第1戦の柏戦に0-4で完敗し、決勝進出がほぼ絶望的になった翌日、9月8日のミーティングでのことだった。
「もう一度、一つになって頑張ろう」。樋口靖洋監督は全員を前にこう呼び掛けたが、サブ組がグラウンドに向かうために席を離れると、言葉を一転させたという。
「これからの戦いは、このメンバーで戦っていくからな」。主力組への鼓舞は、サブ組を含めて一丸となろうとしたイレブンにとって、水を差すようなものでしかなかったという。「本当にあり得ない。選手に言う必要があるのか」。伝え聞いたサブ組の一人は文句をぶちまけた。
より一層チーム力が試される終盤戦を前にチームは揺れていた。
●組織
シーズン序盤は結果も伴ったことでチームはうまく回っていた。
開幕6連勝を成し遂げた際には、FW藤田やFW端戸らサブ組が決勝点をマーク。レギュラー争いが過熱することで、チーム力アップの兆しが見え始めていた。
だが、日本代表の活動による約1カ月間の中断期明けの7月6日以降、レギュラーは故障や出場停止といったアクシデントを除いては完全に固定化された。紅白戦や練習試合で好プレーを見せても、選手の序列は変わらなかった。
フロントにも責任がある。今年1月の新体制発表で、下條佳明チーム統括本部長は「夏の補強も前向きに考えている」と明言。しかし、その夏が来るころには「今のレギュラーは盤石。入るところはない」と話し、新戦力獲得の動きは一時あったものの実現することはなかった。
戦力の固定化、危機意識の欠如、流れを変えられるような切り札の不在-。それはついに悲劇を生むことになる。11月10日、リーグ第31節の名古屋戦。今季の一つの分岐点だった。
●下降
大黒柱頼みだった弱みが露呈した。ここまで全試合に出場していたMF中村が胆のう炎で不在になると、攻守に見せ場がないまま、名古屋に1-2で敗れた。代役のMF中町がトップ下で練習したのは、1週間ほど前から。とても間に合わなかった。
王手をかけた新潟戦、川崎戦もまたこのチームの弱点が出ていた。ゴールマウスに嫌われ続けたFWマルキーニョスに代わるオプションはなく、藤田をまず1番手で交代させる手法もお決まりのものだった。
バラバラになりかけたチームを何度も決起集会などでまとめてきた中村がシーズン中、話していたことがある。「チームが一つになる瞬間はなかなか味わえない。若い選手、出られない選手も、1年間を通して得るものはいっぱいある。優勝できたらいいんだけど」
キャプテンが誰よりも待ち望んだ、その瞬間は無念にも訪れなかった。
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