「人のぬくもりを感じながら闘えた」。うっすらと涙をため、口を突いたのは感謝の言葉だった。
準々決勝で不覚を取った。早すぎる敗退だった。以前の高藤ならここで終わっていたかもしれない。だが、荒波を乗り越えた23歳の闘志は燃え尽きていなかった。「応援してくれる人に何か持って帰りたかった」
心技体。何かが欠けても柔らの道は極められない。リオデジャネイロへの4年間、どの柔道家よりもその思いをかみしめてきたことだろう。
2013年に世界選手権を制し一躍寵児(ちょうじ)となった。「俺って強いんだって思っていた。勢いもあったけど、勝ち続けると周りが見えなくなるって実感した」。翌年の世界選手権の期間中に練習への遅刻などの規律違反で強化指定ランクを降格させられた。
それでも期待を持ち続けてくれる人がいた。師である井上康生監督(38)は教え子の失敗を自らの責任と受け止め盾になった。時にはともに涙してくれたこともある。「特別な存在だし、心に響いた」。心を入れ替え、一心に技を磨いた。
宿命と位置付けてきた金メダルには届かなかった。「色が違う」。3位決定戦を勝ってもその表情は晴れなかった。それでも師は言った。「色は違えどもメダル第1号をプレゼントしてくれた。誇りに思っている」
井上監督だけではない。高藤の背中には、支え続けてくれた妻や「裏切った」と自戒する柔道ファンの熱いまなざしが注がれている。
誰かのために闘うからこそ強くなる。次こそ黄金色に輝くメダルを-。立ち止まらなかった男にはきっとなせるはずだ。
たかとう・なおひさ パーク24所属。リオデジャネイロ五輪柔道男子60キロ級銅メダリスト。得意は小内刈り、袖釣り込み腰。東海大相模中-東海大相模高-東海大出。160センチ、60キロ。23歳。栃木県出身。