ことし17年目のサッカーJリーグで初めて、悪天候を理由に途中で試合を打ち切り、未消化分を後日実施する「再開試合」があった。7日に茨城県・カシマスタジアムで行われた1部(J1)の鹿島アントラーズ―川崎フロンターレは後半29分、3―1と川崎の2点リードで再開され、試合時間はロスタイムを含めて21分間。日本サッカー界の頂点に位置するプロリーグの興行で、前例のない戦いが残したものとは―。
大音響に乗せた入場セレモニーも、整列も不要だった。雨上がりの午後7時。両チームの選手は迷わず約1カ月前の守備位置へ走る。競技場の時計は29分を指し示し、スコアボードも初めから3―1の川崎リードを伝えた。
可能な限りの「原状回復」は、中断前のプレーに戻って鹿島の間接フリーキックからキックオフ。異例ずくめの一戦は、主審の笛からたった8秒で川崎が失点するハプニングまで生んだ。
もっとも、ドラマはそう続かない。通常の90分試合に対し、この日はロスタイムを含む20分強。小学生の試合の前半にすぎず、シュート数は鹿島5本に川崎2本。体力的に十分の川崎が残り時間を耐え、逃げ切った。
発端は9月12日夜の“第1戦”。試合途中に雨脚が強まり、ピッチに水が浮き始めたことから、審判団は「大雨によるピッチコンディション不良により、競技者が安全にプレーすることが不可能」と判断。異例の試合中止を決めた。
リーグは過去に、台風で交通機関がまひしたり、雷雨で観客の安全が確保できなかったりと、主にピッチ外の要因を中止の判断材料としてきた。今回の決定は「雨天決行」のサッカー界では前代未聞であり、関係者の間にしこりを残す。
これまで中断後に中止になった5例がそうだったように、中止の場合はルール上、再試合となる。ただ、試合時間の8割以上を消化し、得点差が開いていたこともあり、議論は紛糾。最高責任者の鬼武健二チェアマンらが、特例で「再開試合」を決断せざるを得なかった。
試合時間が通常の4分の1以下ならば、観衆も3895人。中断前の約2万2千人に遠く及ばない。9月12日の時点では1位鹿島、2位川崎の直接対決と注目されたが、その熱気までは再現できなかった。あとは、競技場の賃借料や人件費などの経費約3千万円が、リーグと本拠地の鹿島側に重くのしかかる。
鬼武チェアマンは今後、再開試合をルール化したい意向だ。ただ、中止時の状況は千差万別で、「できるだけ早くと思うが、ガイドラインづくりは難しい」と先が見えない。さらに、「選手の安全」を理由とした中止決定の基準も不明瞭(ふめいりょう)なままだ。
観衆も選手も振り回されっぱなしの短期決戦。川崎ファンの自営業男性(39)=川崎市高津区=は、「消化不良の気持ちもあって駆け付けたが、もう二度と起こしちゃいけない」と、観衆無視の決定を憤る。
「試合終了」間もない午後8時。川崎のMF中村憲剛選手は「雨の中でもやるスポーツ。日本のサッカーのためにも、こういうことは起きない方がいい」と言い残し、車に乗り込んで約250キロ離れた静岡県内へ。日程が重なる日本代表の合宿地に急いだ。
【】