
正木2発 王者の夢砕く
「初球」打ちで攻略
慶応の4番正木が左翼スタンドに突き刺した2本のアーチが、昨夏全国覇者の大会3連覇の夢を打ち砕いた。
一回に高校通算18号となる逆転3ランを放つと、五回に中押し2ラン。いずれも最初のストライクを捉えた。「(ここまで)4番らしい活躍をできていなかった。プレッシャーはあるけど、期待されているのでチャンスで打ちたかった」。昨秋から4番に座る2年生は充実の表情を浮かべた。
積極的な打撃は慶応ナインに共通していた。チームの9安打は初球打ちの4本を含め、すべて最初のストライクを振った打席で生まれている。
春の県大会準決勝で横浜に1点に封じられてから、チームは全打者のこれまでの打席内容を分析。簡単に追い込まれて苦しむ打者が多いことから森林貴彦監督(43)は「プロでも2ストライク後の打率は1割台。初球から打てないのは心の弱さ」と5割程度だったファーストストライクのスイング率を75%に上げることを徹底してきた。それは「相手投手のレベルが上がるほど、追い込まれたら厳しい」と前年覇者の左右エース攻略の解にもなった。
就任1年目で横浜スタジアムでの初采配。大一番で完勝の瞬間、指揮官の目にこみ上げるものがあった。「昨年の全国優勝校を倒せるチャンスは限られた学校にしかない。選手たちがやり切ってくれた」。北神奈川を制した2008年の記念大会以来となるベスト4に進んだ。
2年生矢澤が大仕事
慶応は2年生の矢澤が高校に入って初となる本塁打でコールド勝ちを決めた。
8-2の八回2死一、三塁。北村が投じた2球目、142キロの直球をフルスイングすると打球は左翼席へ一直線。「打った瞬間、左中間を抜けたと思った。思い切り振った結果。たまたま入った」と笑顔で話した。
5回戦まで11打数3安打とやや苦しんだが、前日の練習で打撃フォームやタイミングの取り方を修正したという。2番打者は「やってきた練習が無駄じゃなかったことを確認できた」と胸を張っていた。

勝利呼ぶ大胆な攻め
2年生エース森田
臆しては勝てない。慶応の2年生エース森田は昨夏全国王者の東海大相模打線を大胆に、冷静に攻め続けた。
一回に先制を許したが「5-3くらいになると考えていたので」と気にしない。六回に相手主砲の赤尾にバックスクリーンに飛び込む特大弾を浴びても、味方の大量援護を背に気持ちはぶれなかった。1死満塁とされながらも内角へのストレートで三ゴロ併殺打に切って取った。
「相模打線には内角をうまく使わなければ勝てない」。強打を恐れるあまりに外角にかわして痛打されるチームを見てきた。だからこそ、ブルペンでは打者を立たせてインコース膝元への精度を高めてきた。この日、与えた3死球も強気に攻め抜いた証しだ。
両輪として支えてきた3年生右腕木澤が本調子ではない。背番号1を担い「プレッシャーよりもうれしい気持ち」と笑う2年生は、「これまで木澤さんに引っ張ってきてもらったので今度は自分が力になりたい」とまだまだマウンドでエンジョイし続ける。

期待が重圧に 東海、8強で散る
あと1点でも失えばコールド負けが決まる八回2死一、三塁。全国の頂を極めた昨夏の甲子園を知る右腕北村は「抑えれば、まだ分からない」と九回の攻めにつなぐことだけを考えていた。
五回途中から上がり、無失点の好投を支えていた直球はしかし、芯で捉えられる。打球が左翼席で弾むのを見届けた背番号11は両膝に手をついたまま動けず、審判に促されて整列についた。
昨秋と今春の県大会に続き、夏本番も準々決勝で敗退。深紅の大優勝旗を全員で返しに行くとの誓いを果たせず、門馬敬治監督(46)は「神奈川の厳しさを改めて痛感した」と唇をかんだ。
左のエース山田啓が一回に3ランを浴びるなど五回までに8失点。それでも、右のエース北村が「流れを引き戻したかった」と語ったようにナインは諦めていなかった。
先頭の六回、主砲赤尾がバックスクリーン直撃のソロアーチ。だが、続いた1死満塁の好機で併殺打に仕留められてしまう。慶応を上回る10安打も10残塁2得点。指揮官は「慶応は3本塁打で8得点。完敗だった。ここぞで長打が出なかった」と振り返った。
全国制覇を成した後、北村は「期待の声、周りの見方が違った」と明かす。今大会はなかなか波に乗れず、攻め抜く東海大相模らしさが出たとは言いがたい。野球を楽しめたかとの問いに主将戸崎は即答した。「楽しむものじゃない。厳しさを持って戦わないと勝てない。勝ってまた横浜と戦いたかった」