横浜商大 3-4 横浜隼人
高校野球 | 神奈川新聞 | 2013年11月23日(土) 07:00
◯屈指の好カード制す
ドラマは終盤に待っていた。八回に3―3の振り出しに戻され、迎えた九回。横浜隼人は1死一塁からエンドランを決めて一、二塁とすると、2死後から再び足を絡ませた攻撃に出た。
スタートを切った二走を視界に捉え、主砲藤澤は外の変化球にがむしゃらに食らいついていく。打球はしぶとく一、二塁間へ。サヨナラの走者がホームを駆け抜け、横浜商大との1回戦屈指の好カードを制した。
商大の好投手、続木に苦しめられた。「低めの変化球は捨てろ」。そんなベンチの指示とは裏腹に、バットが出たのはその低め。それがサヨナラ打に実るのは、5年前に相次ぐ逆転勝ちで強豪を倒し、頂に立って以来、いや、それ以前から徹してきた隼人の攻撃野球がなせる技だろう。
「カウントが2ストライクになった時点で走らせようと思った。うちは攻撃的にやっていかないといけない」。打席に4番を置いてもなお水谷哲也監督は信念を貫き、選手たちが見事に応えてみせた。
四回に左翼場外へと運ぶ高校通算48号の逆転2ランで主導権をもぎ取った主将手塚の言葉が頼もしい。「じゃんけんで勝って後攻を取れた時点で勝てると思っていた。自分たちは『逆転の隼人』だから」。宗、深野の中軸が大会前に故障する逆風にも、自信がみなぎっていた。
優勝を遂げた5年前も初戦のサヨナラ勝ちから始まった。「(あと)8回勝って甲子園で笑いたい」と手塚。あの夏の再現へ、隼人が第一関門を突破した。
◯商大、涙無し
141球目。サヨナラ打を浴びたのはこの日、さえ渡っていたスプリットだった。それでも当たり損ねの打球だ。力負けは決してしていない。
横浜商大の続木は胸を張って言う。「スプリットで空振りを取ることができたし、悔しいけど、やりきった」。敗れてなおエースの表情はすがすがしかった。
結果が出ず、苦しんだ末につかんだ切り札だった。6月中旬に習得したのがスプリット。直球と変わらぬ軌道から落ちる変化球で、強打で知られる横浜隼人から9三振を奪った。
変化球だけではない。「好打者。抑えればいい流れがくるので絶対に打たれたくなかった」。プロ注目の宗に対して真っ向勝負。内角ぎりぎりのストレートで快音を響かせなかった。
背番号1の力投に導かれるように、打線も成長の跡を見せた。「打撃が課題と言われ、悔しい思いもあった」と主砲永原は2―3の八回に同点二塁打。「春から積み重ねてきたことに間違いはなかった」
だからエースにも主砲にも涙はない。「ナイスホームラン。絶対、甲子園行けよ」。永原は隼人の手塚に声を掛け、手塚は「任せろよ」と応じた。二人は握手を交わし、笑顔で別れた。
【神奈川新聞】