

帽子のつばの「気」の文字は、大切な恩師であり、偉大な先輩から受け継いだ言葉だ。
最速148キロの剛速球がうなりを上げる。スライダー、カーブの切れ味も文句なし。プロのスカウトも注目する藤嶺藤沢のエース左腕・矢澤宏太は、100回目の夏へ「自分がゼロに抑えれば負けることはない」と、静かに闘志を燃やす。
小学校硬式の町田リトル時代。野球教室でいつものグラウンドに元プロ野球選手がやってきた。名前は知らなかったが、憧れの世界で活躍した人と触れ合えただけでうれしかった。帽子のつばに書いてくれたのが、「気」の文字だった。
それが2004年の日本シリーズで西武を頂点に導き、MVPまで手にした右腕・石井貴との出会いだった。それから帽子が変わっても、いつもその1文字を書き続け、自身の座右の銘にした。
当時から投攻守とも非凡だった矢澤に「一目ぼれした」という藤嶺の中丸洋輔監督(44)から熱心に誘われた。自主性を重んじる練習スタイルは魅力的だった。しかも、石井が臨時投手コーチを務めていた。ここで野球がしたいと思った。