第90回選抜高校野球大会第6日は28日、兵庫県西宮市の甲子園球場で行われ、9年ぶり9度目の出場となった神奈川の慶応は3-4で彦根東(滋賀)に惜敗し、初戦で姿を消した。
第7日は29日、東海大相模が第3試合(午後2時開始)で静岡との3回戦に挑む。
エース生井、夏に借り返す
エース生井は呆然(ぼうぜん)と、慶応応援団で埋まる三塁側アルプス席の前を加速していく打球を見つめ、天を仰いだ。「ああ、やらかしてしまった」。1点リードの八回。試合を決する逆転3ランが、左翼席へ吸い込まれた。
2死一、三塁で彦根東の6番高内と対した。2ボール2ストライクと追い込んだ後だった。「外角に落ちるチェンジアップで空振りを」。捕手善波のサインに、首を振った。「今日は変化球でストライクを取れていなかったので、インコースで勝負しようと思った」。直球がわずかに真ん中にずれた。そこを、狙い打たれた。
「自分にスタミナがあって球威が落ちていなければ、詰まらせて外野フライにできた。あそこを押し切れる力がなかったのが、この春だった」。1球ですべてを語った。
変化球でカウントを整え、直球で打ち取る本来の投球ができなかった。「ボール球をきっちり見逃されて、苦しい投球になってしまった」。被安打は11を数え、三者凡退は2イニングのみ。球数が増え、130キロ後半だった速球が、終盤には120キロ台に落ちていた。
45年ぶりの出場だった2005年春から09年春にかけ、4度甲子園に出た「慶応時代」の後、低迷して9年。再び遠ざかっていた聖地を引き寄せたのは、間違いなくこの左腕だった。
「借りを返しに来たいです」。夏こそはここぞで押し切れるエースに。
「攻撃力、まだまだ」指揮官の無念
昨秋から課題は明白だった。策は講じてきたつもりだった。だが、甲子園は甘くなかった。
「振り返ってみると、まだまだ攻撃力が足りなかった。監督の責任です」。就任3年目の慶応・森林貴彦監督(44)は聖地での初勝利を逃し、唇をかみしめた。
0-1の七回無死満塁の絶好機。8番善波の2点打で逆転したまではよかった。
なおも無死一、三塁。一気に攻めたい場面で、9番生井が三振。1番宮尾が二ゴロ併殺打。流れを手中に収め切れなかったその隙を、突かれた。直後の八回。彦根東のキャプテンに3ランで試合を決められた。
わずか5安打。頼みの上位打線は1番宮尾から4番下山まで、一本のヒットも生まれなかった。秋のチーム打率2割7分5厘は出場36校中、下から数えて5番目。打力不足は自分たちが一番理解し、徹底して練習に取り組んできただけに、下山は「打席で考えすぎてしまった。一番調子がいい状態だったが、試合でその精神状態になれなかった。もっとシンプルに打席に入っていければよかった」と悔しさをにじませ、宮尾は「最後のチャンスで打てなかったことが、最も悔いが残る」と声を絞り出した。
「甲子園で勝つには、接戦でどれだけの力を発揮できるか。うちには本当の攻撃力が足りなかった。この試合でそう言われた気がする」と指揮官。夏に向け、陸の王者に問いかけられた命題だ。
善波 吠える七回2点打一時逆転
ヒーローになるはずだった。
1点を追う七回無死満塁で打席には8番善波。オール直球勝負の5球目だった。「真っすぐ一本だったので、指3本分バットを短く持って、上からたたき付けた」。外角高めのボール球を左中間へ引っ張った。一時試合をひっくり返す2点打に、塁上で激しく吠(ほ)えた。
だが敗戦に当然、表情はさえない。二、五回と三走を置いた先制機で、三振した。捕手としては八回に自らのサインを断られて選択した1球が、決勝3ランとなった。
「冬の間、打てなければ勝てないと打力をテーマにしていたのに、打てない。逆転3ランも、同じ直球でももっと厳しいコースに構えるべきだったと思う」
それでも、けん制で二走を2度刺し、父の明大野球部・善波達也監督譲りの野球センスを披露。2年生ながら、実力は慶応の扇の要と呼ぶにふさわしい。「夏はもっと自分が自信を持ってピッチャーをリードしたい」。打撃でも守備でも、という覚悟だ。
奥村、執念適時二塁打
2点を追う八回2死一塁で、それまで無安打だった5番奥村が左翼線への執念の適時二塁打。「追い込まれていたので、変化球だけを狙っていた。とにかく次につなぎたかった」と会心の当たりを振り返った。
上位打線で唯一の安打が貴重な得点を生んだが、背番号4は「チームは負けてしまったのでまだまだ練習不足ということ。もっと頑張って投手を助けられるバッティングをしていきたい」と気を引き締めた。
慶応・森林貴彦監督(44)の話 打撃力がなかったし、甲子園で勝つにはあらゆるものが足りないと痛感させられた。(八回の)3ランは予想できなかった。夏に向けてまた練習する。
慶応・下山悠介主将の話 相手投手のスライダーが想像以上に切れていた。甲子園という舞台で浮き足立っていた部分もあった。これからもっと隙のないチームを目指さないといけない。
彦根東・村中隆之監督(49)の話 増居の向かっていく直球主体のピッチングが、チーム全体に力を与えたと思う。うちは力のないチームだが、一発を狙う力はある。それが生かされた。
彦根東・高内希主将の話 逆転されても勝負は終盤だとみんなで話していた。スタンドの応援で逆転3ランを打てた。配球は打たれたなら仕方ないと割り切って、自信のある球で勝負した。