2012年夏の甲子園準々決勝。2季連続で準優勝中の光星学院(現八戸学院光星、青森)でさえ挑戦者にすぎなかった。主役は桐光学園2年の左腕エース、松井裕樹(22)。4万人近い観衆が、奪三振記録がどこまで伸びるのかを期待していた。
見たことのない軌道
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青森 光星学院 北條史也
光星学院の4番打者だった北條史也(23)=阪神=に当時のスコアを示そうとすると、すかさず遮られた。
「全部覚えてますよ。三振、三振、レフト前、左中間(二塁打)です」
1回戦の今治西戦で1試合22奪三振の新記録を打ち立てた松井に対し、2回戦の常総学院(茨城)、3回戦の浦添商(沖縄)はスライダー対策を練っていたが、なすすべはなかった。
光星ナインは「特別なことはしない。いつも通り」と自然体で臨んでいたという、北條自身はそこまでの2試合で本塁打を連発する好調ぶり。スライダーを捨てて、追い込まれる前の直球を一発で仕留めるプランだった。
しかし-。初打席は内角高めの直球に空振り。「思った以上に切れがいい。完全な力負け」。2打席目はワンバウンドの伝家の宝刀に、つい手が出た。「投げた瞬間は真っすぐに見えて振り始めたら視界から消える。見たことない軌道でした」
チームも五回まで1安打9三振。大会屈指のスラッガーは、ここでプライドを捨てた。第3打席ではバットを短く握って安打を放つ。
そして、「連投の疲れか、スライダーの切れがなくなってきた」という八回の第4打席。先制適時打を放った3番田村龍弘(23)=ロッテ=に続いた。外角スライダーを左中間へ。桐光を突き放す2点適時二塁打だった。