延長十五回。最終打者を打ち取った定岡正二(61)はカクテル光線に照らされながら控えめに拳を握り、ようやく緊張から解放されて相好を崩した。
1974年夏。第56回全国高校野球選手権準々決勝の東海大相模-鹿児島実業。3時間38分の激闘は後に、球史に残る名勝負として語り継がれることになる。
監督・原貢が率いる東海大相模は、夏の甲子園は2年ぶり4度目の出場。長男の辰徳が1年生ながら5番でスタメンに名を連ね、父子(おやこ)鷹(だか)としても脚光を浴びていた。
一方の鹿実は、県大会地区予選から本大会3回戦まで定岡が8完封の離れ業を演じて勝ち上がってきた。大会屈指の剛腕で甘いマスクの定岡と、新たなスター辰徳が相まみえた話題性豊富な注目カードとなった。