
「正直、甲子園を目指す雰囲気ではなかったですね。自分はプロになりたくてやっていたけれど、周りは負けて泣くほど必死に取り組んでいたのかな、という冷めた目で見ちゃってました」
2015年にシーズン216安打を放ち、プロ野球記録を樹立した日本屈指のヒットメーカー・秋山翔吾(29)はどこか淡々と、自らの高校時代を振り返る。
06年7月26日の神奈川大会準々決勝。横浜創学館の主将として臨んだ最後の夏は、その春の選抜大会で5度目の全国制覇を成し遂げていた横浜の圧倒的な力の前に屈した。
センバツ決勝で1試合の大会史上最多得点となる21-0で清峰(長崎)を破っていた横浜の強力打線が、高浜卓也(現ロッテ)を中心に襲いかかった。大会タイ記録となる1試合5本塁打を浴び、2-12の七回コールド負け。監督の森田誠一は、エースの藤谷康玄が「どこに投げても打たれます」と意気消沈していたことを、苦笑交じりに思い起こす。「うちも悪いチームではなかったんだけど、とにかく横浜が強すぎたよね」
3番中堅で出場した秋山はこの試合1安打。自らの頭上を越えていく打球を目で追うことしかできなかった。
「これだけの力の差を最後の試合で目の当たりにしたので後悔はなかった。やり切ったし、悔し涙はなかったですね」。試合後は晴れ晴れとした表情で、泣きじゃくる仲間たちを慰めた。