横浜育ちの右腕が、日本のプロ野球を経由せずに世界最高峰の舞台・米メジャーリーグに活躍の場を求めて、早くも10年目になる。
メジャー通算357試合に登板しているマイアミ・マーリンズの田沢純一(31)が、高校野球界に向けて発信する提言は示唆に富んでいる。
「アメリカって選手が楽しそうなんですよ。高校、大学の試合でもミスを恐れない。リーグ戦が多くて一発勝負ではないというのもありますが、伸び伸びやっているイメージがあるので。そういうところも(日本は)学べるんじゃないかな」
翻って、自らの高校時代には「正直あまり思い出はないですね」と苦笑する。「日本のすごく怒られながらやる高校野球というのが悪いとは思わないけど、もうちょっと(米国流と)歩み寄りができたらいい」
今季の推定年俸は700万ドル(約7億7000万円)。2013年にはボストン・レッドソックスのワールドシリーズ制覇にも貢献した剛腕のルーツは、華々しさとは無縁の泥くさい高校時代にあった。
「入部した時に、みんな『おまえどこシニ?』とか言うんですよ。シニア出身だと位が上がる。でも、こっちはそんなの知らなかったし」
中学の軟式野球部育ちだった田沢は、高校時代は練習についていくだけで大変だったという。
「正直しんどかった。練習に行かなくていいのなら行きたくなかった。何でこんなに厳しいところに入ったんだろうっていつも思っていた」
「やっと慣れてきた」という2年春には球速は入学時の125キロから15キロほどアップ。その夏に横浜商大を10年ぶりの甲子園に導く1学年上のエース給前信吾と遜色ないほどに力を伸ばしてきても、過酷な練習は続いた。全力で20メートルを15本走り、それを10セット繰り返す。「うちは横浜高校のセレクションを落ちたような人が来るところなので、横浜がアメリカンノックを10本やったと聞けば、おまえらはじゃあ、その2倍みたいな」
きつかったのは体づくりのメニューだけではない。「一番覚えているのは、ストライク5球1セットで、ボールを1球でも投げたら(右翼と左翼の)ポール間を走って往復しなきゃいけない。それで戻ってまたすぐ投げる。はあはあ言ってるのにストライク入らないですよね。プロでも全部が全部ストライクを取れるわけじゃない。選手に言ってる監督でもそんなことできるとは思わないですよね」