5万人の大観衆の熱気を帯びた1966年夏の甲子園。初出場で松山商(愛媛)との準々決勝に進んだ横浜一商(現・横浜商大)のエース佐々木正雄(69)は、敗戦の瞬間をベンチで迎えた。逆転勝利を信じた最終回。2-4の九回2死二塁、主将・六番井上泰司のバットが空を切ると、ひと筋の涙が頬を伝わった。
佐々木 自分に対して「お前よく頑張ったよ」って思った瞬間、涙が流れたね。二回にドラフト1位で広島に進んだ西本和明に弾丸ライナーの本塁打を打たれて、打球を目で追ったんだよ。追い込んで得意のドロップで三振に打ち取ろうと思ったけれど痛快に打たれちゃってさ。
やっぱり甲子園は特別だったよね。あのころできたばかりの新幹線に乗ると大阪に着くのが早すぎて気持ちが追い付かない。開会式の入場では両足がしびれたね。何もない所から、急に未来に来てしまったような戸惑い。強豪校ばかり整列しててさ。
気迫を前面に直球とドロップで準々決勝までの4試合で33イニング無失点。準決勝では守備の乱れから2失点したが、3連覇を目指す武相を決勝で完封した。
佐々木 一商の校長で後に商大の監督を俺に託してくれた故・松本武雄先生からは開幕前、「安んじて事を託される人になれ」と言われたんだ。だから「俺がこけたら、みんなこけちゃう」って気持ちだったね。
決勝では「打てるもんなら打ってみい」ってね。マウンドに向かうときも冷静。「かっかしたら駄目だぞ」って自分に言い聞かせて向かったよ。とにかく勝つために腕を振って、気付いたら武相倒して「勝っちゃった。優勝しちゃったのか」と身震いするような感じ。涙がぶわぁってあふれてね。