

軽やかで、柔らかで。高橋由伸は、まずもって気合や根性で野球をやるタイプではなかった。
物静かな男がユニホームを着て試合になると、まるで人が変わった。1年夏の甲子園。柳ケ浦(大分)との2回戦で、二塁走者だった高橋は内野安打でホームを狙い、頭から捕手をかわしてセーフとなった。好走塁に違いないが、手を痛めていた高橋にとって、本来は「禁止事項」だった。

2年夏の甲子園でも、沖縄尚学との初戦のクロスプレーで左太ももを肉離れし、さらに持病の腰痛を押して救援に立ち、延長十二回に力尽きて敗戦投手となった。試合後は抱えられて病院に行くほどの重症にも、最後まで「腰は痛くない」と言い張っていたという。
ジャイアンツでも入団2年目に、ファウルフライを追いかけてフェンスに激突。鎖骨骨折の大けがを負っている。
その二面性とも言える闘志の源を本人に問うと、こう返ってきた。
「冷静にとか、気持ちを高めたりとか、スイッチの切り替えをしているつもりはないですけどね。正直、目の前のプレーというか、試合に対して、とにかく一生懸命になっていただけでした」
登山家が「そこに山があるから」頂上を目指すように、そこにセーフがあるなら、そこにアウトがあるなら、一歩前に行くのは当たり前。それが今も昔も変わらない由伸スタイルなのだろう。
