日大藤沢4-1鎌倉学園

ようやく広がった夏空に、グラブを外した右拳を突き上げた。日大藤沢の左腕武冨が9回を5安打、10奪三振で1失点完投。2015年以来の4強に導いたエースは「責任感を持って戦ってきたので、気が抜けました」と力を出し切った充実感をにじませた。
完封ペースだった九回に1点を返され、なお1死一、三塁。サウスポーの脳裏には昨夏の敗北が浮かんだ。1年前の初戦の藤沢翔陵戦。2番手で救援しながら同じ九回に3点を許して逆転負けを食らった。4年ぶりの初戦敗退の屈辱だった。
「顔が死んでんじゃねーか」。マウンドに来た一塁手の筒井に頭をはたかれてわれに返った。「もう俺じゃ負けない」。次打者を外角の直球で二ゴロ併殺に仕留め、苦い記憶を打ち消した。
10回1失点で完投した横浜隼人戦から中6日と休養十分のマウンド。終盤まで球威は衰えず、八回には自身最速の144キロをマークした。2種類のスライダーもより生きた。
胸に刻んでいた言葉がある。「おまえが投げたら当たり前に4強はいける」。OBの特別臨時コーチ山本昌広氏(元中日)から受けた指導で、精神面でも自信が持てるようになった。
「またおまえで負けるのか」。長い冬の間、そう叱咤(しった)してきた山本秀明監督(49)も「本当に嫌みたらしく言ってきてさ。本人も自覚して去年の倍くらい練習してきたんだ」と成長を喜んだ。
4強というレジェンドとの約束は果たしたが、「まだ終わりじゃない」ことは誰よりも分かっている。24年ぶりの聖地へ。いよいよ暑くなってきた夏の主役へと躍り出る。