この1点を奪い切る。あと1アウトを取り切る。一つ先の塁まで進み切る。東海大相模がまた一つ完成度を高め、2年ぶりの頂点に王手をかけた。
まずは攻撃だ。今大会初めて相手に先行を許した直後。山田翔のタイムリーで追い付いた後の二回2死二、三塁から、山田拓が一塁線にプッシュバント。これが敵失を誘い、一気に2点を勝ち越した。「内野が深いから必ずサイン出すよ、と。言っていたことをやり切れたのが大きい」と門馬敬治監督(47)。観察と準備を結果に結び付ける技術を示した。
続いて走塁だ。八回無死一、二塁から、二走の黒澤が捕逸で一気に生還し、ダメ押しの5点目を奪った。「捕手の動きが少し緩いというデータがあった。ワンバンしたら一つ、後逸したら二つ先と決めていた」。全力で三塁を蹴った判断には、明確な根拠があった。
そして守備。緊迫した七、八回と先頭の出塁を許したが、いずれも内野ゴロで併殺を完成させた。
遊撃小松は5回戦の向上との延長で送球ミスを犯し、大ピンチを招いていた。だが「エラーを怖がっていたらやっていけない。今日のあの(併殺の)場面で全力で投げられなきゃ意味がない」。こう言えるあたりに東海の本当の強さがある。
主将喜友名は言う。「僅差の試合は記録に残らないエラーで負ける。球の握り替えなど練習から常に細かい部分を許さずやってきた」。今夏、失策はいまだ一つだ。
剛気で繊細な野球を突き詰める。だからここまで来ても、門馬監督は「できなかった反省」ばかりを強調する。勝負の神は細部に宿る-。夏の決勝は、なおさらだ。
小技光った山田拓
身長168センチ、体重62キロ。体が小さいからこそ「細かな技で生きていく」。東海大相模の2番山田拓は分かっている。
1-1の二回2死二、三塁。セーフティースクイズのサインに、準備はできていた。「内野が深かった。一塁側に転がせば、誰もベースに入れない」。プッシュバント。一塁の悪送球を誘い、二走までかえした。
練習の3分の1を小技の強化にささげ、「あれが自分らしい打撃」と誇れる。七回にも中前適時打。準々決勝まで打率2割5分と苦しんでいたが、春は県の決勝まで5割5分6厘と打力は折り紙付きだ。2番打者が大一番の前に息を吹き返したのは、何よりの追い風だ。
「スクイズ、エンドラン、汚いヒット。チームのためにできることをやる」と2年生は静かに誓った。
小松にようやく快音
東海大相模の1番小松にようやく会心の当たりだ。七回に右翼フェンス直撃の三塁打を放ち、「結果が出てよかった」と胸をなで下ろした。
ここまで5戦でわずか4安打と苦しんでいた。「打てない分、どんな形でもいいから貢献したいと」。この日を含めチームトップの6四死球5盗塁と、地道に役割を果たしてきた。「投手が頑張ってくれている。次は打線が援護したい」。リードオフマンの出塁が、王座奪還の鍵を握る。
「全力で勝ちにいく」
東海大相模の捕手山田翔が攻守で活躍。打席では1点を追う二回1死二塁、初球のカーブを捉えた。「緩い変化球でカウントを整えてくる」と配球を読み、右中間に同点二塁打を放った。
守りでは要所で内角に要求する強気のリードで齋藤の1失点完投をサポート。横浜との決勝へ「全力で勝ちにいく」と目をぎらつかせた。