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誰かの憧れになりたい
「ベイスターズにはヤツがいる2016」vol.1倉本寿彦

ベイスターズ | 神奈川新聞 | 2016年6月2日(木) 12:31

ⓒ横浜DeNAベイスターズ
ⓒ横浜DeNAベイスターズ

 憧れは、今も瞼の裏側に鮮明に焼き付いている。

 カクテル光線が照らし出すスタジアムのショートストップには、背番号5。誰よりも美しく、カッコよく、スタジアムを駆け抜ける彼のプレーに少年は心酔した。

 横浜DeNAベイスターズの倉本寿彦は、小学生の頃から今まで、憧れの姿を追い続けている。

 「昔から、憧れを追いかけ続けてここまできました。横浜高校も、ベイスターズの石井琢朗さんも。いつか僕もそこでプレーしたい。そして憧れを超えて、僕が子供の頃に憧れたように、僕自身が誰かに憧れられる存在になりたい。そんな思いがあるんです」

 神奈川県茅ケ崎市出身。小学校の頃に見た横浜高校の野球に憧れ、「お前には無理だ」と口を揃える中学野球関係者の反対を押し切り強引に横浜高校へと進学。2年生でレギュラーを掴むと、1学年下の筒香嘉智と共に甲子園に出場した。

 その後、プロを目指し大学に進むも叶わず。社会人を経由し14年ドラフト3位でDeNAベイスターズに指名された。

 横浜高校の渡辺元智前監督が「お前がプロに入るとは思わなかった」と驚いたように、どの時代でも決して突出した存在ではなかった。その道は練習により切り拓かれてきた。

 だからなのだろうか。現在、DeNAベイスターズには6人の横浜高校出身者がいるが、倉本寿彦が醸し出す雰囲気は、どこか他の出身選手とは異なるように感じる。ルーキーだった昨年から自分だけの間を持ち、練習でも試合でも、ロッカーを出るのはいつも一番最後。グローブは保湿クリームで手入れをし、バットには靴下を履かせて持ち運ぶ。さらにグラウンドではポーカーフェイスを崩さない。今シーズン、開幕から打撃開眼したかのように安打を積み重ねても。反対に昨年、これまで培ってきた自身の打撃がまるで通用しなかった時も。


ⓒ横浜DeNAベイスターズ
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 「人に見られているうちは、何があろうと表には絶対に出したくないんです。相手に『こいつ弱いところあるな』と思われたら、そこで負けですからね。去年はすべての面において完全に力不足でした。打開策もなく、どんどん切羽詰まっていく。人前では平静を装っていましたが、一人になった瞬間『プロのシーズンはこんなに長いのか……早く終わってくれ』って随分と弱気になっていたと思います」

 新人離れした守備力で開幕スタメンを勝ち取った昨年。オープン戦こそ好調で終えるも、その時点で体力は尽きかけていた。瞬く間に打撃が不調に陥ると、倉本の大きく足を上げ強く引っ張る打撃スタイルは槍玉にあげられた。

 社会人日本新薬の2年目に“不惑の大砲”と呼ばれた門田博光氏に教えを受け、自身の信じるところとしていたこの打法。門田氏自身『誰も受け継ぐ人はなく、教えても皆途中で投げ出す』と嘆いていた達人の奥義は、一度は自身にピタリとハマり確信を得た。先達からは『打てなくてもいいから、続けること』と教えを貰うと、それを誓いとした。

 そんな打法を易々と変えるわけにはいかなかった。倉本は不調の中で試行錯誤し、突っぱね続けたが、結果はいつまで経っても出てくれない。不調はついに絶対的な自信のあった守備の面でもメカニクスを狂わせると、6月、首脳陣はファーム行きを命じた。

 「自分の感覚って絶対にあるんです。誰かに“こうすべき”と言われて直すよりも、自分が経験して、納得して辿り着かないと本当の意味で変えることはできない。去年は、アドバイスを聞いたとしても、その段階まで自分が至らなかったですし、実行できる余裕も技量も体力もありませんでした」

 後半戦。倉本は打撃スタイルをガラリと変えた。足はすり足に変え、外角を逆らわずにレフト方向へ流すようにすると、9月、10月には打率は2割7分まで上昇。1割台だった通算打率はギリギリ2割に乗せ、1年目のシーズンを終えた。

 「やっぱり葛藤がありました。門田さんとの約束を破ってしまったことは悔しいです。今、電話が掛かって来たとしても出られませんしね……。でも、レギュラーも掴んでいない新人が我を通す立場ではない。今は、結果を残すこと。そしてチームが勝つことが何よりも大事ですから。ただ、昨年一年間、粉々にされたわけじゃない。悩んだことで得たものも大きいですし、“やれる”という自信もあるんです」

 2015年秋、ラミレス新監督が就任。センターライン強化を課題としていたチームにあって倉本の守備力は新指揮官から絶対的な評価を受け、シーズン前からショートのレギュラーの最右翼として期待されていた。ただし、「打力は求めない」。指揮官のそんな言葉が重かった。


ⓒ横浜DeNAベイスターズ
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 「今年は、とにかく打ちたいんです」

 今年の沖縄キャンプ。倉本は強い口調で決意を語っていた。絶対に結果を残すため、打撃練習をしたくてウズウズする。そんな衝動が襲い掛かる中、倉本はあえて抜いた。シーズン前にバテてしまった昨年の失敗を繰り返さないためだった。

 「全部の打席でヒットも打ちたいし、ホームランも打ちたい。だけど、一気に飛ぶことはできないので、焦らず、ひとつひとつ段階をクリアしていこうと。去年一年間の失敗を絶対に無駄にはしません。打席でのアプローチの仕方は変更しても、芯の部分だけは絶対にブラさない。今年は結果を残して、中心選手として認められるようになって、チームを勝たせるんです。球団も“5”周年ですからね。今年は僕の年にしますよ」

 今シーズン、開幕からここまで、倉本は有言を実行している。打撃フォームのマイナーチェンジをしつつ、安打を積み重ね打率はチームトップの3割1分1厘(6月1日現在)。毎試合、淡々と逆方向を狙いすまし、図ったようにヒットゾーンへと落とす。そこには、もうひとつ、モチベーションになっていることがあるという。

 「シーズン前に、石井琢朗さんに約束してもらえたんです。『今季もしもレギュラーとして十分に納得の行く結果を残すことができたら、あの応援歌を使ってもいいよ』って。この約束は絶対に破ることはできませんよ。僕は“本物”になりたいんです。技術だけでなく考え方や人間性が成長できてこそ、憧れられる“本物”の野球選手だと思っています。時間は掛かるかもしれないですけど、挑戦して、吸収して、成長していきます。そしていつか……もう一度、門田さんの打法に挑戦したい。そう思っています」

  “誰かの憧れになりたい”

 あの日、倉本が見た光景を重ねるように、今日も背番号5はスタジアムを駆け抜ける。それが新しい誰かの憧れとなることを信じながら。
(村瀬秀信)

スポーツライターの村瀬秀信氏による連載コラムが始まりました。村瀬氏は茅ケ崎西浜高校出身。熱いプレーの裏側にある選手達のインサイドストーリーをお届けします。



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