川崎市出身の人気アナウンサー・塚越孝さんから聞いた話である。横浜市内のイベントで司会を引き受けた。ステージ前にライバル局が特設の放送用ブースを出している。「立派なブースがあるのでウチの局もたいしたもんだと喜んだら、他局なんですよ。がっかりだなあ」などとぼやき、会場から笑いをとった▼ところが一連の冗談が「他局をばかにした」と主催スポンサーなどに伝わる。塚越さんに対し「謝罪しろ」と苦情が寄せられてしまう。その時、「『がっかり』の意味が違う」などと事の真相を伝え、事態を収めたのが当時の電通横浜支社次長。その人の名を加地隆雄さんという▼横浜ベイスターズ社長になった加地さんに仲裁のいきさつを問うた。「塚ちゃんは将来ある人だから傷つけたくなかった」と説明したが、「大洋時代からのベイの大ファンでもあるからね」とも付け加えた▼加地さんは厳しい取材はのらりくらりとかわした。でも憎めない。球団経営も楽ではなかったろうが愚痴をこぼさず笑顔も絶やさなかった▼「塚ちゃん」の早世を惜しんでいた加地さんが亡くなった。2人ともベイの躍進を信じ切っていた。天国でそろってプロ野球のキャンプインを見ているに違いない。さぞ、にぎやかなことだろう。
【神奈川新聞】