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【ベンチ裏】どん底から這い上がった横浜の若き逸材、筒香嘉智を変えたシーズンオフ

ベイスターズ | 神奈川新聞 | 2014年7月29日(火) 11:38

その瞬間、歓声が起こるまでのわずかの間、ベンチが静まり返った。



 7月16日、マツダスタジアムで開催された前半戦最終戦の広島戦。8回に筒香が2試合連続となる1試合2本のホームランを放った。

完璧にボールを捉えた豪快なフルスイング、打った瞬間にホームランとわかる大きな美しい弧を描く弾道。そして、2試合連続2本塁打という事実。

 期待され続けて来た若き才能がいよいよ覚醒しようとしているー。その瞬間を目の当たりにしたベンチは、ここ数年くすぶり続けた大器の片鱗が一気に爆発しようとするその光景の迫力に、思わず歓声を上げる前に息を飲んでしまった、そんな感じの静寂だった。

 今シーズン、86試合を消化した7月28日時点で76試合に出場。クリーンナップとして68試合に先発出場し打点58、本塁打17。本塁打17本はエルドレッド、バレンティンに次ぐセ・リーグ3位、日本人選手ではトップ。得点圏打率.450では12球団トップの成績を残している。

 ここまで順調な活躍を見せる筒香だが、昨年はどん底を味わった。昨シーズンの出場はわずかに23試合。本塁打1、打点3は入団初年度の2010年を除き、これまでのキャリアの中で最低の成績だった。開幕戦には先発で起用され、周囲からは高い期待を寄せられてはいたが、その期待に応えられなかった。自信を失い、自分のバッティングフォームを見失い、さらに不振にはまっていく。完全に悪循環に陥っていた。

 過去最低のシーズンを終えて迎えたシーズンオフ。筒香に更に試練が待っていた。内野手のバルディリスの獲得が決まり、筒香の外野手へのコンバートが濃厚となった。さらに、11月に行われる若手選手中心の秋季キャンプでは、中畑清監督や1軍首脳陣が直接指導する奄美大島行きのメンバーからも外されてしまった。入団以来、「将来のベイスターズを背負って立つ逸材」と周囲から期待され続けて来た筒香だったが、「このまま消えて行くのかも知れない」いよいよそんな声すら聞こえて来るようになった。

 もう後がない。そんな状況は本人が一番感じていた。「周りからは『2014年は勝負の一年ですね』なんて言われますが、勝負の年というのは、それまでにある程度の積み上げがある人が使える言葉。今の自分にとっては当てはまりません。来年は自分にとって、野球を続けられるかどうかの〝審判の年〟、それくらいの一年だと思っています。2014年が開幕した時に、やれるだけの準備はやった、そう思えるように死ぬ気で練習したいと思います。」

 2013年11月、多くの若手選手は奄美大島に行き、ベテラン選手は各自の自主トレーニングによる調整を任されていた。横須賀にある総合練習場に集まったのは、野手は筒香を含めてほんの数人だった。筒香の〝審判の年〟に向けた挑戦は、海からの冷たい風が吹きつける横須賀で静かに始まった。

 まず取り組んだのは、打撃フォームの見直しだった。不振が続き苦悩する中で、本来の打撃フォームが完全に崩れていた。横須賀に残っていたファームの大村巌監督がつきっきりで指導した。「11月は本当にバットを振り続けました。シーズン中に、どれだけ不安になっても『俺はこれで行く』と貫くことができる、確固たるスタイルを作りたい。そういう想いで練習に取り組んでいました」

 徹底的にバットを振り続けた11月を経て、12月は身体をいじめ抜いた。ロサンゼルスに渡り、メジャーリーガーやバスケットボール選手らと同じフィジカルトレーニングに取り組んだ。1月は国内に戻り、DeNAベイスターズの同年代の若手選手らと自主トレーニング。例年は、ベイスターズから巨人に移籍した村田修一の自主トレーニングに参加していたが、今年はそれもやめた。「村田さんと一緒にトレーニングさせていただくと、学ぶことも多く、充実感も得られます。でも、自分と村田さんでは現在の実力も、置かれている立場もまったく違う。今年は、自分自身と向き合って、孤独な環境で自分に必要なトレーニングだけに集中した方が良いと考え参加しませんでした」。

 こうして始まった、2014シーズン。筒香はオープン戦から好調を保ち、3月28日の開幕戦では「5番・左翼」で先発出場。「2月1日に宜野湾で久しぶりに会った時から、表情、身体つき、そしてバッティングフォーム。すべてがこれまでの筒香とは違った。これまでの筒香が真面目にやっていなかった訳ではなかったけど、やっぱり、どこかで必死さが伝わって来ないところがあった。人は崖っぷちに立たないと、死ぬ気になれない。だから、俺はこのシーズンオフ、筒香をそういう環境に置いたわけだけど、しっかり修行してきたんだな、というのが伝わって来た。俺が監督に就任した2012年は100試合以上に起用した、去年は開幕スタメンでも起用した。でも、それは他に選手がいなかったから、若い選手を起用しただけのこと。でも、今年は違う。ここまでの成績を見れば言うまでもないけどさ、今年は勝ち取った出場だよ」(中畑監督)。

 中畑監督の信頼を再び掴み、開幕後も先発出場が続いていた筒香だったが、低迷するチーム全体の打撃成績と共に、筒香自身の調子もなかなか上向いて来なかった。4月8日の阪神戦では4打数無安打3三振に倒れ、翌日の試合では今季初のスタメン落ちを経験した。昨年までの筒香であれば、ここから調子を取り戻すのに時間がかかったのかも知れないが、今年は違った。2試合の先発落ちを経て11日のヤクルト戦で途中出場すると、いきなり3打数2安打の活躍を見せた。そこから常に打率は2割後半から3割前後をキープ。得点圏打率も首位を維持し、7月12日のヤクルト戦では自己最多となる11号ホームランを早々と更新した。「今年は、調子を崩しそうな時にでも、信じられる自分の打撃スタイルがある。そして、調子が崩れそうな時に修正するための具体的な練習の引き出しがある。それは大きいですね。4月にスタメン落ちを経験した時も、不思議と『今年もか?』という不安はいっさいなかったです。『こんなところで躓いてたまるか』という強い気持ちが沸いて来ました。それは昨年までと大きな違いです」

 ♫横浜の空高く ホームランかっ飛ばせ筒香♫

筒香が打席に立った時に歌われる応援歌。ひと際、大きな声で歌われるその様子からは、若き大砲にかけるファンの期待の大きさ、託した夢の大きさが感じられる。2011年の入団以来、ずっとこの光景は続いて来た。そして、これまでの4年間はその期待に応えられずにいた。

 「天才」「超高校級」「怪物」「名門・横浜高校の最高傑作」ー。

若くして多くの賞賛を浴びながら、その実力を発揮できなかったこの4年間について、筒香に聞いてみたことがある。

「やっぱり、辛かったですよ。ファンの皆さん、支えてくださる皆さんに申し訳ないという気持ちが強かったです。周りの視線が気になることもありましたし、『自分のことを過大評価しないで欲しい』と弱気な思いになったこともありました。

 でも、今年のオフ、あそこで吹っ切れましたね。このオフ、僕の周りは、とても静かでした。奄美大島にも行きませんでしたし、去年の成績を見れば当たり前ですが、取材やイベント出演などもこれまでの4年間で一番少なかったと思います。そこで思ったんです、『プロ入り後に自分自身が戦っていた、『筒香嘉智』というイメージは死んだんだ」と。『原点からの再スタートだ』と。そう思うと、気持ちがとても楽になりましたし、『今に見ていろ』という闘争心が沸いて来ましたね。

まだシーズンの途中ですし、生まれ変わったことができたのかはわかりません。そして、もし1年間チームに貢献できたとしたら、今度はそれを2年、3年と続けなければ意味がありません。これまで、ファンの皆さんに期待していただいた分、クライマックスシリーズに進出することで恩返ししたいです」

 横浜DeNAベイスターズにシーズンを通じて帯同しているスタッフがチームの裏話を教えてくれる『横浜DeNAベイスターズのベンチ裏』を、昨季に引き続いて随時、カナロコに掲載します。スタッフだけが知り得る生き生きとしたベンチ裏のエピソードをお楽しみ下さい

【神奈川新聞】



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