

ベイスターズの主砲が「野球への恩返し」を誓った。
昨年1月に大阪府堺市のボーイズリーグ「堺ビッグボーイズ」の小学生の部のスーパーバイザーに就任した筒香嘉智外野手(26)が14日、同内のグラウンドで行われた野球体験教室で講師役を務めた。
野球チームに所属しない小学生未満から小学3年生まで73人の子どもたちに伝えたのは「野球を楽しんでプレーしよう」というスポーツのあるべき姿。教室を終えたキャプテンは報道陣を集め、12分間の“独演会”を開催。その胸に秘めてきた野球の未来への思いを、熱く熱く語った。
この日を前にスマートフォンに打ち込んだ「原稿」を頭にたたき込んでいた。「何度も練習してきたみたいで…」。堺ビッグボーイズの瀬野竜之介代表(47)の紹介で現れた筒香は、取り囲んだ報道陣に思いをぶつけた。
筒香 今からお話しさせていただくのは、今後の野球界のため、子どものために僕が思っていることです。野球人口が減っているとはいっても、なぜ減っているのかをもっと掘り下げないといけないと思っています。
野球人口の減少が叫ばれる中、日本球界を代表する打者に成長したスラッガーは、どうすれば子どもたちの興味を野球に引き戻せるのか-というテーマに心を砕いてきた。アマチュア球界の旧態依然とした指導方法にも警鐘を鳴らした。
筒香 世の中がものすごいスピードで変化している中、野球界は昔から変わっていない。一つは勝利至上主義。皆さんの時代もそうだと思いますが、僕たちも指導者の方々に「勝たなきゃ意味がない」と言われてきた。投げ方、走り方、やるべきプレーまで決められた。
勝ちたいとなれば練習量が増える。結果的に肘や肩を壊したり、手術したり。未来のある子どもたちがつぶれていく姿をたくさん見てきた。勝ちたいからと変化球を多く投げて、細かい野球をやるんですが、その影響でスケールの大きい選手が育っていない。
骨格も出来上がっていない子どもたちが、負けたら終わりのトーナメントを戦っている。そうなれば変化球も多くなるし、ミスもできない。出ている子どもたちは日程が詰まって体に負担がかかる。出られない子どもたちは試合ができなくて面白くないし、経験も積めない。
こうした考えに至った転機は2015年オフだった。周囲の反対を押し切ってドミニカ共和国のウインターリーグに参加。現地の野球事情に衝撃を受けたという。
筒香 小学生くらいの選手がジャンピングスロー、グラブトスを当たり前のようにしていた。何度失敗しても指導者は怒らないし、子どもたちもちゅうちょなくチャレンジする。16歳くらいの子は真ん中に思い切りストレートを投げて、打者はフルスイング。大人になった時にすごい差になる。ドミニカの人口は日本のだいたい12分の1。メジャーリーガーは日本が10人ほど、ドミニカは50人くらいいる。
道具一つをとってみても、周囲から聞いた話やインターネットなどで自ら調べたデータを参考にすると、他国との差を痛感したという。
筒香 金属バットの弊害も大きい。アメリカは大学まで金属バットですが反発係数に制限があって、日本に比べて全然飛ばない。使ってみたら木製バットのように球を引きつけないと飛ばない。日本は昨夏の甲子園で大会の本塁打数を更新したが、バットのおかげ。卒業後にプロに入って木製バットで苦労する高校生を何人も見てきた。僕も使いこなすまでに時間がかかった。
将来の野球界を担う子どもたちを思い、日本の4番は“独演会”をこう締めくくった。
筒香 日本にはいいところもたくさんあるが、遅れている。海外に目を向けて吸収することも大事。自分どうこうより子どもたちの将来を考えることが大事。指導者の皆さんにも子どもたちのことを思って、そのことを伝えていただければうれしいです。
活動の輪広がりを
中学時代に指導・瀬野さん

筒香の中学時代にビッグボーイズで指導に当たった瀬野さんは、球界を背負って立とうとするまな弟子の姿を感慨深げに見詰めた。
「トッププレーヤーになって、選手としての(プレー以外での)活動が大事になる。それだけの立場の選手が、野球のことを考えることに大きな意味がある」
筒香は自らが運営するチームのスーパーバイザーを務めるが「ただ単にうちのチームの選手が増えることを望んでいるわけじゃない」と話す。野球人口が減少し、「このままではいけない」という危機感を筒香とともに抱く。
野球を楽しむことは堺ビッグボーイズの理念という。瀬野さんは「ここはあくまで発信の拠点。野球の裾野を広げる活動が例えば神奈川で広がったり、賛同してくれた他のプロ選手が同じような活動の輪を広げてくれてくれればいい」と願いを込めた。