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わが人生・藤木幸夫(3) おやじも人生を語る

わが人生 | 神奈川新聞 | 2021年4月3日(土) 00:00

 各界を彩る神奈川県ゆかりの人物が、自ら半生を振り返る連載「わが人生」。成功に至る道程とそこで培われた人生観とともに、懐かしい生活風景や人生を翻弄した激動の世相も映し出しています。約半世紀にわたり神奈川新聞読者の皆さまに愛され、今なお色あせない「わが人生」企画。バックナンバーの中から厳選し、カナロコで復刻掲載します。第一弾は、藤木グループ会長の藤木幸夫さん。全130回。

 現代の観点では不適切な表現や、現在では状況が異なる事象もありますが、紙面掲載当時の表現、表記をそのまま掲載しています。著者の所属先など関係者・関係組織へのお問い合わせはお控えください。

2004年3月18日掲載

わが人生は「劇場人生だ」と語る筆者

 私のことを書く前にぜひとも語らねばならない〈ミナトの男たち〉の人生がある。門前の小僧ではないけれど、小さいときから父を取り巻く人間模様を見、その場に立ち会っているうちに、気づいてみると、いつの間にか私も同じ世界に生きていた。

 私が今日私でいられるのは、そうした人々のおかげである。

 予告編としていえば、私の半生は幸せそのものだった。その幸せが祖父母や両親の苦労の上に成り立っているということは、片時も念頭から離れたことはない。

 親の子に対する愛情の発露―。それを具体的な事実によって表現することは、親子の愛情が希薄といわれる昨今だけに意義あることだと思う。

 仕事の面でいえば、人は規則や命令だけで動くのではなく、使う立場にある者の愛情やさりげない思いやりに心を打たれて自分から動く―。幸いなるかな私はそうした名場面に数え切れないほど立ち会ってきた。

 不肖・藤木幸夫の人生は「劇場人生」である。もちろん、私にも人生があるから自ら舞台上の主人公になって演ずることもあるが、大半は観客席にいて喜怒哀楽を堪能したというのが本当だろう。

 まず、わが父・藤木幸太郎のことから記すわけだが、その前に祖父の桜木岩五について語らねばならない。祖父・桜木岩五、父・藤木幸太郎について、私の記憶を極めて系統だって整理してくれたのが、かつて神奈川新聞で健筆を揮った白土秀次記者だった。

 確か昭和五十二、三年のことだったと思う。

 ある日、会長室に呼ばれて入ると、私のおやじと白土秀次記者がいた。

 「白土先生がおれのことを本にするといってきかないんだよ。今でもおれは気が進まないんだけど、しようがないから、おまえ、立ち会え」

 おやじが根負けした感じで嘆くような口ぶりで私にいうと、白土記者が諭した。

 「おやじさん、あんた一人の体じゃないんだよ。会長の生き方は後々の人にちゃんと伝えないといけないんだ」

 「そんなもんかねえ」

 私のおやじがため息交じりにいうと、白土記者がぴしゃりといった。

 「そんなもんです!」

 私はつい、笑ってしまった。

 〈ミナトのおやじ〉と呼ばれ、数々の修羅場をさっそうとくぐり抜けてきたおやじが、蛇ににらまれたカエルのように小さくなっていた。こんなおやじを私は初めて見た。

 おやじはようやく決心がついたらしく、胸を張ってきっぱりといった。

 「わかった。しゃべります」

 「おやじさんは自分のことをしゃべるのは嫌いだろうから、五回だけ。毎週土曜日の午前中、それでいいですね」

 「わかった。ちゃんとやるよ」

 かくして藤木幸太郎がみずからの人生を語り、私もその場に臨むことになった。

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