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神奈川新聞と戦争
(187) 1943年 浮き彫りになる不条理

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2021年7月11日(日) 05:00

 出陣学徒が入営する1943年12月1日、本紙は「けふの入営を前に学徒兵“鉄石の決意”」の見出しとともに、4人の学生の談話を掲載した。「きつと勝つ」と題した法政大商学部3年の所感は、大本営発表のような書き出しだった。

 「畏(かしこ)くも、大東亜戦争宣戦の大詔が渙発(かんぱつ)せられまして二年、大御稜威(おおみいつ)の下、われら先輩、皇軍将兵の奮戦力闘は、南に、北に、敵米英の執拗(しつよう)なる反攻を撃破、赫々(かっかく)の大戦果を挙げ、最近にはブーゲンビル島沖、ギルバート島沖航空戦に於(お)ける如(ごと)き致命的打撃を加へて我が必勝の態勢は大東亜共栄圏確立の大業とともに、その巨歩は着々と進められてゐる」

 大詔とは天皇が国民に告げる言葉のことで、特に41年12月8日の対米英開戦の詔勅を指す。大御稜威とは天皇の威光のこと。赫々とは赤々と輝く様子で、誇張した戦果を形容する大本営発表の常套(じょうとう)句だった。

 こうした物々しい語りの合間に、学生としての言葉が挟まる。これまでの戦果に「昨日まで学窓に在つた我々は感謝に堪へなかつた」とか「吾等(われら)学徒に出[判読不明、出陣か]の大命下り空に海にまた陸に皇士の防人(さきもり)として先輩に続いて馳(は)せ参じることの出来たのは無上の光栄であり日本男子の本懐之(これ)に過ぎるものはない」といった一節だ。

 これらも演出された言葉に違いないが、徴兵猶予の認められた学生にやましさを負わせていた社会状況や世論を踏まえれば、前回紹介した慶大生の談話と同様、学生らは倒錯的に愛国心を発露せざるを得なかったとも取れないだろうか。

 後段、この学生は次のように語っている。

 「私は今、全身全力を国家に捧(ささ)げ、全智(ぜんち)全能を傾けて国家に殉ぜんの覚悟でおります。最後の最後まで心静かに勉学に努めることの出来た歓(よろこ)び、学生としての本分を昨日まで一点の曇りもなく、尽すことが出来たことは、第一線へこれから進発する私の心の激励ともなつてゐます」

 全智全能とはインテリの意地かもしれない。「最後の最後まで」のくだりも、大学3年の在学中に出陣させられる現実からすれば矛盾というほかない。意図した批判でないにせよ、よく読めば学徒出陣の不条理が浮き彫りになる。学生生活の記憶が「心の激励」となっているとの感慨は、彼らのアイデンティティーが大学や学問にあったことを如実に物語っている。

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