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神奈川新聞と戦争
(186) 1943年 言い換えられない心境

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2021年7月4日(日) 05:00

「よき二等兵として」などの見出しで出陣学徒の談話を紹介した1943年12月1日付の本紙

 出陣学徒の入営の日、1943年12月1日付の本紙は「さらば“祖国に我(われ)殉ぜん”」の見出しと扇情的なリード(前文)を掲げ、横浜市中区の慶大生ら学生4人の言葉を紹介した。」

 法学部に在籍していたという慶大生の談話は次のような言葉から始まる。

 「今更(さ)ら何にも言ふことはありません。今日あることは既に期待して居(お)りました。たゞ出陣の日が一日も早くあれと願つてゐました。出陣の暁は総(すべ)てを捧(ささ)げつくし、すめらみ国の健児として醜(しこ)のみ楯(たて)となる覚悟は固く極(き)めて居ります」

 文中の「すめらみ国」は天皇が統治する日本のことで「皇御国」と書く。「醜のみ楯」は「醜の御楯」で天皇を守る盾の意味。

 後段では「たゞ皇国のすべての若き友が私の屍(しかばね)を踏み越へても(略)闘魂をたぎりに沸(た)ぎらせて貰(もら)ひたいと思つてゐます」と同世代に呼び掛け、これも万葉集の防人(さきもり)の歌の「本歌取り」である自作の歌「けふよりはしこのみたてと征(ゆ)く我の 屍を越えて 征けよ我が友」を添えている。

 出陣への意欲や天皇を守る覚悟といった、皇国史観に沿った学生の心情は、当時の新聞が学徒出陣を“演出”する際に幾度となく再生産した言説である。

 しかし、美辞麗句の間に挟み込まれた一節には、それらと別種の真実味がにじみ出ている。「こんな静かな気持ちはいまだかつて味はつたことはありません。真当(まっとう)に良き二等兵になりたい考へで一杯です」

 「良き二等兵」とは、軍隊生活になじもうとする切実さの表れだろう。徴兵猶予が特権視され「青白きインテリ」とやゆされた学生が、汚名返上のごとく国策への忠誠心を競う。そのけなげさが切なく響く。

 「静かな気持ち」という語句には、すがすがしさとも絶望感とも異なる複雑な心境がうかがえる。自身の「屍を越えて」行けと言わざるを得なかった時代、学窓から引き離された彼らの気持ちは「静か」という言葉のほか、容易に言い換えられなかっただろう。

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