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神奈川新聞と戦争
(142) 1942年  「仕事への愛」を強いる

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2020年6月21日(日) 10:00

 「日本一の草履取り」。言うまでもなく豊臣秀吉の出世物語を指す。1942年3月13日の本紙に掲載された、寿屋(後のサントリー)の献納広告である。

 「その昔、豊太閤が、或(あ)る人の問にこたへて『自分は格別の働きをした覚えはない。ただ、日本一の草履取りでありたいと心がけた。侍時代には日本一の侍たらんと励んだ。一方の旗頭となつては、日本一の旗頭たるべく努力したにすぎぬ』といつた」と逸話を引き、「仕事に軽重をつけたがる」風潮を戒めた。

 それ自体はもっともらしい。だが、真の狙いは「心から仕事を愛し、常に第一等の働きを心がける」ことを求めることだった。つまり生産性の向上だ。

 15日の寿屋の広告は、ビジュアルに凝った。前線兵士の写真を切り抜き「兵隊さんとあなた-」の題を大きな活字で飾った。29行にわたる広告の文句は次のような内容だった。

 「兵隊が、与へられた任務に対して、勝手な選(え)り好みを言つたり、とやかくと軽重をつけたりする者が、一人だつてゐるだらうか。銃後も、それと全く同じでなければならない。あなたの、現に、受持つてゐる持場(もちば)は、いはば国家から与へられた重い任務だ」

 13日付と同様、銃後の生産性を上げる狙いが読み取れる。次のような一節もある。「御奉公に遺算なきを期する」「持場々々が固く守られ、更(さら)にそれらが、まるで、一つの生物(いきもの)のやうに結びつく」。前者は国家(天皇)に対する国民の奉仕を、後者は前線と銃後の連続性を示す。

 広告の趣旨はニュースとも連動していた。例えば「黙々と増産に挺身(ていしん)するお百姓の声を聴け」と題した同月19日の記事だ。横浜市の農政課長が穀倉地帯の港北区などを訪問し農家の意見を聞いた、といった程度の内容だが、見出しは「都市の消費者達(たち)は真剣に増産に協力せよ」と仰々しい。

 課長は談話で「矢鱈(やたら)に弱音を吐くといふやうなことはせず、一意国家非常の際何とか一粒の米でも余計作らうとする熱意が犇々(ひしひし)と感じられ頭が下つた」と、農家の「御奉公」ぶりをたたえた。

 立場を超え戦争に巻き込む「総力戦」を、新聞全体で体現していた。

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