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神奈川新聞と戦争
(170) 1943年 学生は輸送の邪魔者か

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2021年1月31日(日) 05:00

「学生は座席を譲れ」の見出しを掲げた1943年10月5日付本紙

 文系を中心とした学生の入隊猶予を撤廃し学徒出陣への道を開いた勅令「在学徴集延期臨時特例」が公布されたのは1943年10月2日。その3日後の本紙に「学生は座席を譲れ」と題した記事が掲載された。

 「戦時下における輸送力の重大性を広く理解徹底せしめ戦力増強に資する」ことを目的に、大政翼賛会の傘下団体の一つ、大日本翼賛壮年団(翼壮)が警察などと共同で啓発活動を行う、といった内容だった。

 記事によると、4人一組の翼壮団員が49班に分かれて東海道線や横須賀線に添乗し、▽車内三人掛け▽座席交代制▽学生、生徒の車内譲席▽不急旅行(買い出し部隊など)の抑制─などを乗客に求めるとされた。

 三人掛けとは、4人向かい合わせの席に無理やり6人で座ること。座席交代制は1、2時間ごとに座っている人と立っている人が交代することを意味した。

 同時代の鉄道を経験した紀行作家の宮脇俊三は著書「時刻表昭和史」で、このことに触れている。

 「『三人掛け』とは、本来なら二人しか坐(すわ)れないはずの椅子に詰め合って三人坐れというものである。三人三様に窮屈な姿勢になるので、尻や背中の片一方側だけが痛くなったりして評判がわるかったが、車掌や何かと乗客に指図したがる人が励行させていた」

 相互監視が常態化した総動員体制下、翼壮はまさに「何かと乗客に指図したがる人」の代表例だった。

 問題は見出しである。「乗り降りはお早く、乗つたら中程(なかほど)へお進み下さい」「急がぬ旅行は通勤時を避けませう」と翼壮が呼び掛けた、という記事に「学生は座席を譲れ」の見出し。記事中の「学生の譲席」の一語を「学生は座席を譲れ」とするのはあんまりな曲解で、学生が戦争に非協力的だとの印象さえ与える。

 「時刻表昭和史」によれば、当時はむしろ、記事にも列挙された「買い出し部隊」が混雑を激化させていた。「『決戦輸送の邪魔は買出し部隊…』といった標語が駅に貼られたりしたが、効果はほとんどなかったと言ってよかった」。配給分の食料では到底足りない。農村への買い出しは当然の、切実なことだった。

 悪意ある見出しには前回同様、長らく「入隊猶予」が認められてきた学生に対する怨嗟(えんさ)がうかがえる。

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