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神奈川新聞と戦争
(158) 1943年 個人の領域を否定する

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2020年11月8日(日) 05:00

木づちを握る拳を描いた「国に捧ぐこの力!」=同年2月12日付本紙

 太平洋戦争が2年目に突入した1943年元日の本紙は、「第二年目も勝ち抜くぞ」の標語を題字下にあしらった。1面には「米英の息の根を止む」と題した東条英機首相の談話が大々的に掲載された。

 真珠湾攻撃から間もない「第一年目」は戦勝気分で明けた。だが43年は違った。偽装された大本営発表とはいえ、ミッドウェー海戦やソロモン海戦を経た戦局の悪化は、国民にも伝わりつつあった。「日本の戦艦、飛行機の貴(とうと)い犠牲」と記した42年12月14日付の寿屋(後のサントリー)の広告からも読み取れる。

 寿屋の献納広告は、そうした苦境を反映してか、教条主義を一層強くした。

 43年1月5日は「親なればこそ 子なればこそ」と題し「外、大敵を向ふに回して一歩も退(ひ)かず、内、莫大(ばくだい)な戦費をまかなひ、食糧、資材を調(ととの)へて貧乏ゆるぎもさせぬ、げに、親なればこその労苦。政府当局のこの親心を思ふ時、子としてどうすればいいか、言ふまでもあるまい」と、家父長制的な価値観に基づき、国家への献身を求めた。

 同9日には爆弾の挿絵に「敵も必死だ」「燃やせ もつと燃やせ 敵愾心(てきがいしん)」といった標語を展開した。同11日のタイトルは「これからだッ」。打ち振られる日の丸の小旗を描き「我らは必ず勝つ為(ため)に根かぎり働き、必ず勝つ為に精一ぱい貯金するのだ」と、労働力提供と戦費調達を求めた。

 一方で、非協力的な国民を排除しようとの趣旨も目立った。2月9日には「私欲追放」と題し「一切の、個人的なものの考へ方、見方を捨てたら、世の中が、どんなに美しくなることか」と個人の領域を否定し「すべてをあげて、国のために捧(ささ)げたら、日本が、どんなに強く逞(たくま)しくなることか」と、戦局の責任を生活態度に負わせた。国民へのプレッシャーである。

 同12日も同様。木づちを握る拳のシルエットに「国に捧ぐこの力!」の文字を添え「男も女も老人子供も徴用者も常傭(じょうよう)者もすべての人が小さな『我』をサラリと捨て心あはせて精一杯根かぎり働らく時!」と、これも個人主義を戒めた。

爆弾をあしらった「燃やせ敵愾心」=1943年1月9日付本紙

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