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神奈川新聞と戦争
(157) 1942年 非常時がもたらす空気

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2020年11月1日(日) 05:00

煙突の絵をあしらい「働かう!」と呼び掛けた寿屋の広告=1942年12月14日付本紙

 戦時下、鉄道の軍需輸送を優先するために旅行の自粛が呼び掛けられた。横浜駅長は「不用不急な旅行を差し控へてゐるその自粛ぶりがはつきり窺(うかが)はれる」と、その効果を1942年12月14日の本紙で語った。

 同月20日の本紙には「戦勝の春を楽しく/生活必需品の取締(とりしまり)/臨検隊が商店街に出動」の見出しで、県警が「厳しいうちにも温かい親心で厳粛な取締を行ふことになつた」と報じた。

 目的は「不正商人の跳梁(ちょうりょう)」の防止で、例えば「組合(くみあわ)せたり抱合(だきあわ)せて売る」「隠して置き『品切れ』売切れ、と称して販売を拒(こと)はる」「徒(いたず)らに販売時間を指定し店頭行列を待つてから売る」などを対象とした。

 マスクの不当な高値転売や抱き合わせ販売、そして外出の「自粛要請」。新型コロナウイルスの感染拡大に直面する最近の状況と重なる。「非常時」には、戦時の空気が顔を出す。

 寿屋(後のサントリー)は「働かう!」と題して同月14日に広告を掲載した。

 「沈めても、沈めても、後から後からと繰出(くりだ)して来る敵の執拗(しつよう)さ。ソロモン海戦こそは、まさに、大東亜戦争が、消耗の戦ひ、生産の戦ひであることを、日本の戦艦、飛行機の貴(とうと)い犠牲に於(おい)て、痛切に訓(おし)へてくれた。果然戦ひの本当の姿は、銃後の生産陣営にあつたのだ。働かう。働き抜かう。敵の生産力に、是が非でも打ち勝つために!」

 ソロモン海戦は南太平洋を巡る連合軍との戦闘で、特にガダルカナル島の戦いで日本軍は多くの将兵、艦船を失った。「貴い犠牲」の美辞麗句の背後に、消耗戦の現実がうかがえる。

 広告が呼び掛けた銃後の「消耗の戦ひ、生産の戦ひ」への貢献は、同月20日の記事にも読み取れる。

 「ハマ百万市民にお馴染(なじみ)の深い伊勢佐木町通りの入口を飾る鉄製のアーチが赤紙受けて名誉の応召をした」

 関東大震災の復興記念のアーチが、鉄材供出の一環で撤去されたのだ。

 記事は「目ま狂しく移り変る世相を、市民の姿を凝(じ)つと眺めて来た」と書き、市民の「肉親に訣(わか)れる思ひです」という声を拾っている。このときばかりは名残惜しげな筆致だ。「非常時」がもたらす不条理は、昔も今も変わらない。

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