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神奈川新聞と戦争
(156) 1942年 自粛無視して温泉へ

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2020年10月27日(火) 15:30

 寿屋(後のサントリー)の広告は「撚(よ)りを戻すな」の文句で、真珠湾攻撃1周年に合わせ「一億一心といふ撚(より)」を緩めるなと必死に訴えた。個人主義を排し、物不足の不自由に耐えることが、天皇による宣戦布告で始まった戦争を続ける「皇国民」の使命だからだ。

 一方で1942年12月14日の本紙には「週末旅行自粛振り/個人良好団体不可/大体の傾向は国策認識」の見出しで、鉄道の乗車制限についての記事が掲載された。

 鉄道輸送を軍事目的に振り向けるため、旅客の乗車制限は既に段階的に進められていた。記事には「東京、横浜、川崎三市の各駅から東海道線小田原、沼津間及び伊東線の各駅に行く場合は乗車日指定乗車券がなければ乗れない」などの条件を列挙。だが現実には、不要不急の旅行をする人が少なからずいたようだ。

 「土曜日の乗車券前売(まえうり)開始した結果、湯河原、熱海、伊東行切符は即日売切(うりき)れとなり、土曜日のこの方面に急用旅行せんとする一部乗客が面食(めんくら)ひ、結局駅長証明で乗車したもの三十九名にのぼつた」「一般に自粛の跡歴然たるものあるが(略)依然として湯河原、熱海、伊東方面に週末旅行に出足をかりたてたもの多数散見されて甚だ遺憾とされ今後なほ一層の自粛と重点輸送に協力するやう切望されてゐる」

 非常時にもかかわらず、不要不急の温泉旅行とは嘆かわしい─。「国策に一層自粛協力を望んで止(や)みません」とする横浜駅長のコメントも載っている。

 戦時下の鉄道を実際に経験した紀行作家の宮脇俊三は「増補版 時刻表昭和史」で次のように記した。

 「実態を見ると、旅客の急激な増加には『国策輸送』とは無縁なものも含んでいた。つまり、『軍需景気』に恵まれた人たちが、いっせいに温泉場や観光地に繰り出したのである」

 これは、あくまで日中戦争開戦から真珠湾攻撃までの時期について書いたくだりだが、記事からは、日米開戦後も「『国策輸送』とは無縁な」混雑が続いていたことがうかがえる。

 折しも、新型コロナウイルス感染症を対象に含む新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案が成立した。外出自粛の要請など広範な私権の制限を伴うことから、懸念も深い。

 不要不急の外出を避ける、一層の自粛協力を─。約80年の時を超え、「国策」が重なる。

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