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神奈川新聞と戦争
(155) 1942年 「身なりはいらない」

神奈川新聞と戦争 | 神奈川新聞 | 2020年10月19日(月) 19:00

働く銃後の女性を称揚した寿屋の広告=1942年12月9日付本紙

 「暴戻(ぼうれい)米英の侵略意図を粉砕すべくわが陸海航空部隊が全太平洋に戦端の火蓋(ひぶた)をきつて…」。1942年12月9日の本紙は、真珠湾攻撃から1年が経過したのを記念し、各面に1周年を喜ぶ国民の様子を伝えた。「大狼狽(ろうばい)したその日の米国」「世紀の感激 各所の記念式典」「神社で記念式」などの見出しが躍った。

 その日も寿屋(後のサントリー)は本紙に広告を掲載した。「身なりより身体つくれ」と題し「働くためには身なりはいらない。丈夫で、元気で、朗らかな、身体が、何より物をいふ!」と記した。挿絵は女性のようだ。くわを担ぎ、体格がいい。既に化粧クリームの広告も「働らいた後の汗をそのまゝではお肌が荒れます。清水でキレイに拭いて必らずレートクレームを伸しませう」(同年5月30日付本紙)と、女性を銃後の労働力と捉えていた。

 12月10日は「撚(よ)りを戻すな」と題し、綱のイラストをあしらった。「一億の心の糸が、大詔(たいしょう)のもと、翕然(きゅうぜん)と撚り合はされて、美事逞(みごとたくま)しい唯(ただ)一筋の綱になつた。この綱の生命は、一億一心といふ撚(より)にある。一人でも不平不満を洩(もら)したり、自分さへよければの行動をとれば、それだけ撚りが戻るのだ。撚りが戻れば綱全体が弱くなる。撚りを戻すな、ゆるめるな!」

 翕然とは一致し一つになる様子を指す。「一億一心」を象徴する語だ。大詔とは天皇が対米英宣戦布告の詔勅を出した後、東条英機首相がラジオで「大詔を拝し奉りて」と述べた語句。以後、毎月8日は「大詔奉戴(ほうたい)日」とされ全国で戦意高揚の行事が催された。「撚(よ)りを戻すな」は、真珠湾攻撃1周年にふさわしい内容だったことが分かる。

 12月14日は煙突の絵に「働かう!」の文字。敵兵力に対抗し、兵器の増産を鼓舞する趣旨だった。だが同日の本紙には、そんなスローガンに矛盾する記事「週末旅行自粛振り」も載った。

 鉄道による軍需輸送を確保するため、旅行の自粛が求められている、という記事だった。旅行する余裕が、まだあったのだ。

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