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やなぎみわさんに聞く 濃厚な世界観 トレーラーが聖地

K-Person | 神奈川新聞 | 2016年6月19日(日) 11:06

やなぎみわさん
やなぎみわさん

 台湾で縁日の出し物などに使われる移動舞台車と、中上健次の小説「日輪の翼」との出合いから誕生した舞台トレーラー。「花鳥虹(かちょうこう)」と名付け、2年前のヨコハマトリエンナーレで初披露した。ようやく「日輪の翼」を舞台化し、花鳥虹をステージに横浜赤レンガ倉庫で野外公演を行う。「念願かなって稽古が始まったときは泣きそうになった」と振り返る。

 「日輪の翼」は、「路地」と呼ばれる和歌山・熊野の被差別部落から7人の“老婆・オバ”たちが、路地育ちの若者たちに連れられて改造トレーラーで日本各地の聖地巡りをする話だ。「もっとファンタジーな話かと思って読み始めたのが間違いだった」と苦笑する。

 「あまりにも濃厚で、なかなかのみ下せない。ストーリーは単純なのに、濃密なおりのようなものがたまっている。筋立てを読むものじゃないと気付くまでに時間がかかった」

 舞台トレーラーは翼を広げるように展開する。内装には中上が創作した夏芙蓉(なつふよう)の花を描いた。「夏芙蓉が咲くところに今は亡き土地、路地がよみがえる」と大輪の花が妖しげな雰囲気を醸し出す。

 「物語をなぞらずに、本質をつかむこと」を目指して、中上の他作品も取り入れた。ポールダンスやロープを使ったアクロバチックなサーカスの技を見せる演出にも取り組み、紀州サーガといわれる壮大で混沌(こんとん)とした世界観を表現する。

 自身の写真作品にも、女性の老いをテーマにしたものがある。「年老いた女性は無常観を象徴する存在。生殖能力を失った女の解放感、疾走感に憧れる」という。だが中上の見方は違う。「オバたちは受難でさえも『かまんわ、しゃあない』と全肯定する。究極の母性であり、熊野の森羅万象と一体化している存在」

 オバたちは熊野、伊勢、諏訪、皇居へと旅をする。野外舞台では場の暗転ができないが「演劇では横浜赤レンガ倉庫が熊野になり伊勢になる。みなとみらいが皇居に見えればいい。ダイナミックな見立て替えができる」と演劇ならではのライブ感を面白く捉えている。8月には中上の故郷新宮で公演する。「新宮に伊勢や皇居を持ってこられれば、中上の生誕70年に喜びはるやろと思ってます」

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 トレーラーのメンテナンスもあり、メカニカルなことに関心がある。パワーショベルなども運転したいという。「クレーンの玉がけ方法とか、入門書を読んでいるところ。読んでいると安心する」と笑う。「土木工学でバランスを取ることは装置化するということ。そう考えると、どろどろした情念を一つの装置にして見せているのが演劇であって、全部に関係性が広がっていくんですよね」

やなぎ・みわ
 演出家、現代美術家。京都造形芸術大教授。1967年神戸市生まれ。91年京都市立芸術大大学院美術研究科修了。90年代後半から写真作品を発表。ドイツ・グッゲンハイム美術館、原美術館をはじめ国内外での個展多数。2009年ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館代表。

11年から本格的に演劇活動を開始。KAAT神奈川芸術劇場ではやなぎみわ演劇プロジェクトとして11年「1924海戦」、13年「ゼロ・アワー東京ローズ最後のテープ」に取り組んだ。

24~26日、横浜赤レンガ倉庫イベント広場(横浜市中区)で、KAATプロデュースとして、演出・美術を手掛けたやなぎみわステージトレーラープロジェクト「日輪の翼」公演を行う。問い合わせはチケットかながわ電話(0570)015415。

記者の一言
 美術館で初めてやなぎさんの作品を認識したのが「マイ・グランドマザーズ」シリーズだ。若い女性が思い描く50年後の自画像を特殊メークなどで具体化したユニークな写真作品で心引かれた。映画のセットを思わせる世界観が演劇に通じている。その後に取材したヨコハマトリエンナーレ2014では、花鳥虹の仕掛けに驚いた。トレーラーが開くに従い、報道陣からどよめきが上がった。妖艶なポールダンスも披露され、カメラのシャッター音がすさまじかった。当時、花鳥虹は台湾で内外装を終えてから輸入された。高雄から約2週間をかけて船で運ばれ本牧ふ頭へ。本牧でずっと待っていたというやなぎさんは「通関するまでドキドキした」そうだ。牽引(けんいん)車を付けて初めて日本の地を走ったのが横浜。旅は横浜からスタートしたのだ。


やなぎみわさん
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