
山あいに入り組んだ谷が続く谷戸地域を、芸術家の活動拠点にしようと横須賀市が取り組む「アーティスト村」(同市田浦泉町)の活動に参加している。
「田浦の住宅街を抜けて細い道に入っていくと、急に緑に囲まれて『ここはどこですか』みたいな世界になる。そんな谷戸の雰囲気がいいんですよ」
1960年に建てられた市営住宅をアトリエ兼コミュニティースペースに改築し、その体験を生かして小説を執筆する予定だ。以前、古民家の再生に関わった経験から、作業を通して地域住民と交流したり、インテリアを自身で手掛けたり、といったことも計画している。
「お金をかけずにやりたくて、一戸建ての自宅を処分してマンションに移るご高齢の方などから、昭和レトロな家具を譲ってもらった」と準備万端。改築の様子は、講談社「FRaU」のウェブサイトで定期的に発信していくという。
「横須賀は都内から1時間以内で移動できて、かなり便利。空き家が問題になっているが、リノベーションして、コロナ禍で田舎に移住を希望する若い人たちに提供するなど活用方法があると思う。市長にプレゼンしたいくらい」と笑う。

海が好きで、逗子で暮らして23年になる。これまでに「制服のころ、君に恋した。」で鎌倉、「天国の郵便ポスト」で逗子、「幸福のパズル」で葉山、と湘南を舞台にした小説を発表してきた。
「次は横須賀を、と取材する過程でアーティスト村を知った。海軍や自衛隊のイメージが先行するが、意外にのどかで人情豊か。そんな奥が深い横須賀を伝えられたら」と構想を練っている。
8月に出た新刊「きみと100年分の恋をしよう きみのためにできること」(講談社、715円)は、横浜で暮らす女子中学生が病を抱えながらも前向きに生きる姿を、恋や友情を絡め、10代の読者に向けて爽やかに描いた。
作家活動は30年を越えた。漫画でも小説でも扱うテーマはぶれることなく、きゅんとするようなみずみずしい瞬間を大事にしてきた。「女の子が求める恋やドキドキするものは、30年たってもあまり変わらないはず。大人も10代の自分を思い出して、ときめきを感じてほしい」
おりはら・みと
漫画家、小説家。1964年生まれ、茨城県出身。逗子市在住。85年、雑誌「ASUKA」(角川書店)で少女漫画家としてデビュー。87年、「ときめき時代 つまさきだちの季節」(ポプラ社)で小説家デビュー。以来、約200冊の漫画、小説を出版。ベストセラーとなった小説「時の輝き」(90年、講談社)は映画化されるなど、10代のみずみずしい恋愛や青春を描いた作品には定評がある。他に、エッセー、絵本、詩集、料理レシピ、CDなど幅広いジャンルで活躍している。
記者の一言
逗子、長野・八ケ岳、郷里の茨城と3カ所に自宅や仕事場を持ち、はやりの「ワーケーション」を率先してきたという折原さん。「時代が私に追い付いた」と笑う。「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語だが、逗子マリーナを見下ろすすてきな自宅は在宅ワークもはかどりそうでうらやましい限りだ。5月頃から、目の前の海で泳ぐことも多いという。八ケ岳では以前、犬と入れるカフェ兼ギャラリーを開いていたそうで、撮影には愛犬のこりきちゃんに参加してもらった。泳ぎが得意なレトリバーらしく波に向かう姿を想像したが、「戻ってこなくなりそうだから、泳ぎには連れて行けない」とか。そんな会話が交わされていると分かっているのかどうか、こりきちゃんはいい顔を見せてくれた。