
「辻本知彦という目があるだけで表現に対してシビアになる。うっかり緩みかかっているひもを締め直される感覚です」。こう表する「ダンサーの同志」と組んだパフォーマンスユニット「きゅうかくうしお」の新作舞台を控える。
肩書は「表現者」。演劇、ダンスと活躍の場は1カ所にとどまらず、「ジャンルというものが自分の中でどんどん不明瞭になっています」。一つのものを創り上げるクリエーティブな作業を前に、分類の言葉は必要ない。
1999年の舞台デビュー以降、映画やドラマを中心にキャリアを重ねる。幼少期から、ミハイル・バリシニコフのバレエ、グレゴリー・ハインズのタップダンスの競演が圧巻の映画「ホワイトナイツ」(85年)など、特に映像を通じて一流のダンスを目にしていたが、本格的に「ダンサー」に思いを馳(は)せたのは20代になってからだ。
「とにかく食いつかなきゃ」。2008年に主演したミュージカル「レント」で出会った辻本とは、互いの身体表現を巡り「かみつき合い」を続けた。「芸事を邁進(まいしん)するには正直なことを言わないと答えが出ない」。表現に貪欲なこの二人がやがて手を取り合うのは必然だった。

あまたのアーティストと創作してきた。その共通項を尋ねると、しばしの黙考。そしてゆっくりと口を開いた。「自分の言葉を持っている人。言葉に癖がある人が好きなのかもしれないですね」
「何かしらの表現に特化する人って、いわゆる世間的な日常生活を送ることが困難だからこそ、違う表現を使って自己を説明しようとする」。他ならぬ自身もまた、その一人だ。
6年前に文化庁文化交流使として1年間イスラエルに滞在。現地のダンスカンパニーに身を置いた。間違えることを恐れずにトライする世界の演出家らに刺激される。「まず間違えないようにする空気が日本にはあるけど、僕はエラーでもいいからとりあえず試したい」。自分の感覚を一瞬でも信じられることを意味するそれは「必ず何かにつながる」と言う。
音響や照明ら多彩なメンバーとつくるきゅうかくうしおでも、対等に意見をぶつけ合う関係を築く。理由は明快。「表現の現場は自由気ままな場所ですから」
自らの活動に責任を持とうと大手芸能事務所から独立した。「ちゃんと芸がある芸能人でいたいんです」。妥協を許さぬ真摯(しんし)な表現者。言葉の端々から、その横顔をのぞかせた。
もりやま・みらい
1984年、兵庫県出身。演劇、映像、パフォーミングアーツといったカテゴライズに縛られない表現者として活動。幼少期からジャズダンス、タップダンス、クラシックバレエ、ストリートダンスなどを学ぶ。99年に「BOYS TIME」(宮本亞門演出)で本格的に舞台デビュー。以降、映画、テレビドラマなどでキャリアを積む。近年はダンスパフォーマンス作品に積極的に参加。2010年、ダンサー・振付家の辻本知彦とパフォーマンスユニット「きゅうかくうしお」を結成。13年秋には文化庁文化交流使として1年間イスラエルに滞在。インバル・ピント&アブシャロム・ポラックダンスカンパニーを拠点に、欧州各国で活動。第40回日本アカデミー賞助演男優賞受賞。第10回日本ダンスフォーラム賞受賞。22日~12月1日、横浜赤レンガ倉庫1号館3階ホールできゅうかくうしおの新作「素晴らしい偶然をちらして」を上演する。チケットはカンフェティ電話(0120)240540などで販売。
記者の一言
森山さんのダンスをじかに見たのは昨年秋。KAAT神奈川芸術劇場で伊藤郁女(かおり)さんと共演した舞台「Is it worth to save us?」だった。体一つで己の生きざまを表現する圧倒的な存在感に息をのんだ。映画「怒り」(2016年)では、無人島にこもるバックパッカーを怪演。底知れぬ不気味さを漂わせる芝居にくぎ付けになった。
唯一無二の表現者だからこそ、インタビューは楽しみでもあり、緊張もした。的外れなことを聞いてしまったかと不安になるほどに、熟考しながら記者の質問に答えてくれた森山さんは、言葉に誠実な人だった。来年の出演作品は「内緒です」。ぜひ、また横浜でその才能に触れたい。