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安藤洋子さんに聞く 尽きない探求心で未知なる表現追求

K-Person | 神奈川新聞 | 2019年10月13日(日) 17:48


安藤洋子さん
安藤洋子さん

 コンテンポラリーダンスの最先鋭を走る米国の振付家ウィリアム・フォーサイスの下で15年にわたり活躍。踊り手として華々しい経歴を積みながら、「イレギュラーなダンサー」を自称する。幼少期からバレエなどを習ったエリートではない。それでも、「踊りの神様」に導かれるようにダンサーとして着実に歩んできた。

 高校3年で始めたジャズダンスで踊りの世界にのめり込み、大学を卒業後に舞踊家木佐貫邦子に師事。「スタートが遅かった分、20代は死に物狂いで『ダンスの体』になるべく鍛えました」

 ピナ・バウシュ、イリ・キリアン…。1980~90年代初頭は世界的な舞踊の才能が相次いで来日した。フォーサイスが芸術監督を務めたドイツ・フランクフルトバレエ団も例外ではなく、初めてその舞台を目にした時は「はるか宇宙に飛ばされるような」衝撃と感動を覚えた。

 「さまざまな体形や肌の色のダンサーが、ダンスはきれいでなければならない、といった既成概念を壊す空間を創り出していたんです」


講師を務めるシニア向けのダンスワークショップ((C)bozzo)
講師を務めるシニア向けのダンスワークショップ((C)bozzo)

 転機は34歳。フランクフルトで上演されたダンス作品の舞台に立ち、これがフォーサイスの目に留まった。直々の誘いで、アジア人として初めて同バレエ団の入団を果たす。

 2004年のバレエ団解散後もフォーサイス率いる「ザ・フォーサイス・カンパニー」に在籍。「同じようなものを創るぐらいなら辞める」と言い、常に新しい表現を模索するフォーサイスからダンスの神髄を学んだ。

 「彼から教わったものを自分だけにとどめるのはもったいない」。拠点を日本に移した今、新たなダンスの可能性を伝えようと活動の幅を広げる。今年はシニアが主役となる身体表現を追求する県の共生共創事業「チャレンジ・オブ・ザ・シルバー」のプロジェクトリーダーとなり、来年3月の成果発表公演に向けてワークショップを重ねる。

 「生の終わりを意識することが芸術の原点」だと、あまたのフォーサイス作品への出演を通じて体感した。プロジェクトも「シニアだからこそできる表現がある」と、これまでの人生の積み重ねがにじませるであろう、高齢の表現者との創作に胸を躍らせる。

 「ダンサーとしてやるべき仕事はこれから始まる気がするんです」。恩師同様の尽きない探求心が、未知なる舞台空間を生み出していく。

あんどう・ようこ
 ダンサー。1967年生まれ、横浜市神奈川区出身。コンテンポラリーダンスを木佐貫邦子に師事。2001年、アジア人として初めて、鬼才の振付家ウィリアム・フォーサイスの目に留まりドイツ・フランクフルトバレエ団(05年からザ・フォーサイス・カンパニー)に入団。メインソロダンサーとしてフォーサイスの40作品を世界各国で踊る。2年ほど前から拠点を日本に移し、アーティストとして自己の身体表現を模索するとともに、経験を生かした芸術教育にも力を注ぐなど精力的に活動している。

記者の一言
 「刻々と雲の流れのように変わっていき、一つのことにとらわれない。常に『瞬間』について考えさせられる」。フォーサイス作品をこのように表した安藤さん。深みのあるこの言葉がじんと胸に響いた。

 60歳以上を対象にしたワークショップの講師を続けている。目指すのは「年を重ねることへのネガティブな感情を拭い去ること」。とかくダンスは、演劇や写真の世界に比べて若々しさが求められがち。「老いていく美しさやその人の生きざまを、ダンスに見いだしたい」のだという。

 「舞台は言い訳が通用しない場所」。終始朗らかに応じてくれたインタビュー中、ぴりっと引き締まったこの一言に、表現者としての矜持(きょうじ)を感じた。

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