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倉科カナさんに聞く 駄目出しに「へこまない」、その理由
K-Person | 神奈川新聞 | 2023年1月30日(月) 19:00
シェークスピアの悲劇「マクベス」を戦国時代に翻案した黒澤明監督の映画「蜘蛛巣城(くものすじょう)」。2月にKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)で開幕するその舞台版に、武将・鷲津武時(早乙女太一)の妻、浅茅(あさじ)役で出演する。山田五十鈴ら名優が演じてきた大役と向き合う日々だが重圧はない。「私なりの浅茅を演じていきたい」と軽やかに語る。
演出は劇作家や俳優など多彩に活動する赤堀雅秋さん。「人間の生々しい感情をのぞき見している感覚になる」という赤堀作品への出演は念願だった。「ご一緒しながらそのスパイスを自分に落とし込みたい」と目を輝かせる。
森で出会った老婆に告げられた怪しげな予言に惑わされ、欲望と疑心暗鬼の末に身を滅ぼしていく武時と浅茅。「政略結婚ではなく、お互いが思い合って夫婦になった。台本にはその愛が色濃く描かれている」。やがて若い2人は戦乱の世に翻弄(ほんろう)される。「蜘蛛巣城の主になる夢を追いかけて、結局は夢の中に溺れ沈んでいく。すごく切ないですよね」
マクベス夫人と同じく、浅茅は夫をそそのかす悪女という印象を持たれるが、夫婦を取り巻く環境や時代背景、せりふの端々からその複雑な人間性を掘り下げる。「子どもを望みながら授かることができない負い目もあった。裏切りや疑念が渦巻き何を信じればいいのか分からない中、夫のため、自分のためにと欲を膨らませるのは深い愛情ゆえ。それは普遍的な感情かもしれない」と推し量る。
映画やドラマに加え、舞台でも目覚ましい活躍を見せ、役者としての存在感を発揮している。「作り手の皆さんと一番顔を合わせて作るエンターテインメント」と語る舞台に格別の思いがあるという。「映像は瞬発的に正解の芝居を出さないといけないけど、舞台はたくさん実験できる。千秋楽まで自分たちの手を離れないのも魅力ですね」
稽古で駄目出しされても「へこまない」と前向きだ。「この仕事は心と体がどう動くかが大事。どうしても思う通りにならないこともある。失敗を繰り返しながら、作品を熟成させていく過程がすごく好きなんです」
今作の役作りはまだ手探り状態。「夫婦が表に見せる顔だけではなく、2人の時はどういう雰囲気なのか、武時が浅茅の前でしか見せない表情をどのように受け止めるのか。こうした余白を埋めていくのが課題です」。心の機微を捉えたきめ細かな芝居を胸に刻み、舞台に立つ。
くらしな・かな 俳優。1987年熊本県出身。2006年にデビューし、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。09年、NHK連続テレビ小説「ウェルかめ」に主演。舞台では21年に出演したこまつ座「雨」(栗山民也演出)と「ガラスの動物園」(上村聡史演出)での演技が評価され、第29回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。「蜘蛛巣城」は2月25日~3月12日にKAATで上演(2月27、28日、3月6、7日休演)。S席8500円ほか。問い合わせはチケットかながわ、電話(0570)015415。
記者の一言
稽古場で恥をかくことをいとわないという。「いろいろな挑戦をして、結果的に役を深められればいい。うまくできなくても、またあしたチャレンジしようという気持ちでいます」。経験を積めば積むほど、自身の弱みと向き合うのは難しいものだが、そこから目を背けない倉科さんはとても強い人だと感じた。「良い作品に携わって、見てくれる方々が喜んでくれたらそれでいいんです」。終始朗らかで、言葉を丁寧に紡いでくれた。飾らず自然体な人柄に、すっかり心を奪われるインタビューだった。
倉科カナさんに聞く 駄目出しに「へこまない」、その理由
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舞台「蜘蛛巣城」のチラシ [写真番号:1137146]
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