1. ホーム
  2. 連載・企画
  3. 連載
  4. K-Person
  5. 李相日さんに聞く 純粋な関係性に希望 情趣あふれた映像

K-Person
李相日さんに聞く 純粋な関係性に希望 情趣あふれた映像

K-Person | 神奈川新聞 | 2022年5月9日(月) 12:15

 2020年に本屋大賞を受賞した凪良(なぎら)ゆうの人気小説「流浪(るろう)の月」。人に勧められて読み、「コロナ禍のせいか、その前からなのかは判然としないが、不安感や、人と人との間に壁が立ちはだかっている感覚がある。そんな中で、これだけ突き詰められる関係があるとは。純粋な関係性が存在することへの希望を感じた」と心引かれ、自ら脚本も手掛けた。

 物語の主人公は更紗(さらさ)(広瀬すず=写真左)と文(ふみ)(松坂桃李=同右)。行き場のなかった10歳の更紗を、1人暮らしのアパートに泊めた大学生の文は、女児誘拐犯として逮捕された。15年後に再会した2人は、傷付いた心身を抱える者同士、互いの痛みを受け止め、信頼を深めていく。だが、世間は「誘拐犯」と「被害女児」の関係を忌まわしいものとして、興味本位で取り沙汰する。

 俳優陣の熱演が光る中、これまでとは違う顔を見せるのが更紗の恋人、亮(りょう)を演じた横浜流星さんだ。更紗に暴力を振るう亮を「ただの記号的なモラハラDV男」ではなく、弱さを内包するキャラクターとして描きたかったという。

 「横浜くん自身は空手のチャンピオンで、ストイックな生き方をしてきた子。自己愛ゆえの甘えをどう表現するのか、つかみきれていなかった」が、存在感たっぷりに具現化している。

 そんな登場人物たちが織り成す繊細な感情を、情趣にあふれた映像で見事に描き出した。そこには、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」などで撮影監督を務めたホン・ギョンピョさんの存在が大きい。ポン監督に紹介され、思い切って撮影監督をオファーした。

 「いい映像とは、ただきれいなだけではなく、役者も含めてその映像が醸し出す力にある。彼はその追求に貪欲で、発想には制限を設けなかった」という。

 「作りたいと思っていたものに、前作の『怒り』で手が届いたというか、できたなと思えて、次の目標が見えなくなった」。そこから6年を経ての新作。「根底にある心の痛みや、不安からくるよこしまな感情は変わらないが、これまでに手掛けた作品より、寓話(ぐうわ)的な関係性が出た。少しは変わったのかな」。これからも人間の内面に目を向け続ける。

り・さんいる
 映画監督。1974年新潟県生まれ。神奈川大卒業後、川崎市麻生区の日本映画学校(現・日本映画大)に入学。99年に卒業制作として監督した「青~chong~」が、2000年「ぴあフィルムフェスティバル」でグランプリを含む4部門を受賞してデビュー。04年、村上龍原作・宮藤官九郎脚本の「69 sixty nine」で監督に起用されメジャー進出。06年「フラガール」で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。10年「悪人」、13年「許されざる者」、16年「怒り」など。 新作「流浪の月」は13日から横浜ブルク13などで上映。

記者の一言
 「流浪の月」のクランクインは、平塚市の東海大湘南キャンパスだったという。文が通う大学のシーンだ。そこから静岡や長野へとロケが続き、叙情的な映像が収められていった。役者を引き立たせる光の表現が美しい。実は弊社の近くでも撮影したと聞いて、身近な場所が更紗と文の世界になったことが不思議な気分だった。原作では文が誘拐犯として逮捕されるのは動物園だが、映画では湖畔になっている。つないでいた手が引き離される。その水にぬれた手の感触を、視覚からも伝えたかったと李監督。「更紗と文には水のイメージがあった」そうで、それぞれが湖に入る場面には、孤独な2人が水を介してつながる意識を持たせたと明かす。細かな設定と演出が、繊細な世界をつくりだしていると納得した。

K-Personに関するその他のニュース

PR
PR
PR

[[ item.field_textarea_subtitle ]][[item.title]]

連載に関するその他のニュース

アクセスランキング