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山本理顕さんに聞く 新生「ちぐさ」自由な音楽楽しむ場に

K-Person | 神奈川新聞 | 2022年4月24日(日) 05:01

 ジャズの街・ヨコハマの財産ともいえる日本最古のジャズ喫茶「ちぐさ」(横浜市中区)。野毛で創業した同店は、90周年を迎える2023年に建て替えられ「ジャズミュージアム・ちぐさ」=写真左=に生まれ変わる。新たに誕生する施設の設計を担った。

 横浜育ちとして、「ちぐさ」はあこがれの存在だったという。「高校のときから知っていたが、ジャズって難しそうで。すごく詳しい人が集まっている感じがして、リクエストをしても『こんな曲を聴くの』と言われそうで、敷居が高かった」と、笑いながら振り返る。だが、デートした際には、「格好をつけて行きました」。

 設計のきっかけは、20年夏に横浜市のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の構想に反対し、カジノを含まない代案を提案したことだった。その際、「ちぐさ」の運営法人の代表理事で、野毛の飲食店主でもある藤澤智晴さんと出会い、まちづくりへの考え方が共鳴した。

 「テーマパーク型の開発は限界を迎えているという話をしているうち、本当にたくさんの人が来てくれる街づくりに向けて、ちぐさのことを一緒に考えてくれないかと頼まれた。非常にうれしかった」という。

 現在の「ちぐさ」の建物は築70年を迎え、安全面から建て替えが必須だった。どんな施設にするか。考えるにあたり頭に浮かんだのが、米国・シカゴでの経験だった。

 「5年ほど前にジャズの生演奏の店に行ったが、全然静かじゃない。にぎやかで、演奏している人が知り合いだと観客が声をかけていた」。日本のように深い知識とともにジャズを聴くのではなく、とても楽しそうだった。「音楽は、こういうふうに聞くんだ。ジャズってそういうものだと思った」と話す。

 ミュージアムは、路上からも演奏が楽しめるようにガラス張りにした。若手演奏家が育つ場となることを願い、ピアノなどを置いて自由にライブ演奏ができる空間を確保するとともに、「ちぐさ」の創業当時の店舗を再現する部屋もつくる。

 設計にあたって創業者の故・吉田衛まもるさんの思いをあらためて感じたという。「1933年の創業当時はドイツでナチスが政権を取り、日本は満州事変で国際的に孤立。吉田さんは、敵対国だった米国文化とは何かと考えただろう。こういう文化、自由な音楽を持った人たちと紹介したかったのではないか」

 吉田さんの出征で店は中断したが、敗戦後に米軍の貴重なレコードなどを集めて再開し、世界のジャズプレーヤーも足を運ぶまでになった。「横浜の重要な文化財でしょう」

やまもと・りけん
 建築家。1945年北京生まれ、横浜市神奈川区育ち。 同区に「山本理顕設計工場」を構える。94年「緑園都市駅前商業街区計画」でアーキテクチャー・オブ・ザ・イヤーなど受賞。2002年「公立はこだて未来大学」で日本建築学会作品賞。「横須賀美術館」で07年県建築コンクール最優秀賞と10年日本建築家協会賞。国内外の建築を手がけ、県内では「横浜市立大学 YCU スクエア」(横浜市)も。

記者の一言
 野毛のランドマークともいえるミュージアムの設計を通して、あらためてその街のあり方に感銘を受けたという。闇市から始まり、例えば野毛大道芸など店主らの多彩な取り組みによって、今や若者たちも集う人気のエリアに育った。そのような街で、「ちぐさ」は地域の文化を形作る大切な要素だった。「ここにあるのは住民自治。自分たちで秩序をつくり運営する。ちぐさの建て替えも、その象徴だと思う」。現在、ミュージアムの建て替え資金を募るファンドが設立され、市民に広く支援を募っている。「文化遺産にしてもいい街。東京ではどんどんなくなっている。こういう場所を守ることは本当に大切だ」。ミュージアムは、その要となる。

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