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砂川文次さんに聞く 怒りの感情創作のエネルギーに昇華

K-Person | 神奈川新聞 | 2022年3月13日(日) 05:00

砂川文次さん

 「受賞の実感がまだなくて。でも感想をもらうたびに、私の想像しなかった読み方がたくさんあると思えて楽しいです」と明るい表情を見せる。1月に行われた第166回芥川賞受賞の記者会見では飾らない言葉とキャラクターにも注目が集まった。熱いエネルギーを内包した作品を次々に発表し、今後の活躍に期待が寄せられる若手作家だ。

 芥川賞受賞作は、感情を制御できずに一つの職場で働き続けることのできない自分自身にいらだち、もがき続ける自転車メッセンジャー・サクマが主人公の「ブラックボックス」。不安定な雇用形態に焦りと不安を感じつつ、日々自転車に乗り続ける主人公の姿を圧倒的な熱量を持って描ききった。

 「人間を掘り下げて描きたい」との思いで取り組んだ今作。雨の中を疾走するサクマがベンツの乱暴な運転に妨害され転倒してしまう冒頭部分から、秒単位で主人公の思考と身体に肉薄する描写で読者を引き込む。選考委員からはその的確で緻密な描写や、極めて今日的で切実なテーマが高く評価された。

 「メッセンジャーの実態についてもある程度は調べましたが、小説の世界では、リアルであることよりリアリティーが重要な場合がある。今回の作品は特に、リアリティーを意識して書きました」

 配達先で出会う会社員や、独立していく同僚たちと接する中で、サクマは「ちゃんとしなければいけないのに、自分はそうできない」ことに追い詰められていく。「今の社会には『この年齢なら家庭を持っているべきだ』というような古い価値観と、その反動として出てきた自由な生き方の礼賛が存在し、どちらの強迫観念にも苦しんでいる人がいると感じる。価値観を押しつけるようなメッセージを見ると強い怒りを感じるんです」

 文学作品に親しむようになったのは高校時代。自然と、自分も文章で何かを表現したいと感じるようになった。「こんな表現があるんだと驚きを持って読書していた。読者は潜在的な執筆者だと思います」。他の作家の優れた表現に触れると、憧れと同時に「俺もやれるぞ」という闘争心もかきたてられるという。

 創作の原動力は「怒り」。しかしそれは決してネガティブなものではないという。「苦境を切り抜けるためには、どこかで怒りのパワーが必要になる瞬間がある気がします。自分にとっては前向きで力強いエネルギーなんです」

すなかわ・ぶんじ
 小説家。1990年大阪府生まれ。神奈川大学卒業。自衛隊在籍中に書いた「市街戦」で2016年の文学界新人賞を受賞しデビュー。「戦場のレビヤタン」が第160回、「小隊」が第164回芥川賞候補作となる。「ブラックボックス」で第166回芥川賞受賞。現在は都内の区役所で公務員として働きながら執筆を行っている。

記者の一言
 青春時代を過ごした神奈川大学横浜キャンパス(同市神奈川区)での思い出を聞くと「友達がいなかったっす」と大笑い。入学直後にアメフト部に体験入部するがしばらくして退部。もはや他の部活には入りづらく、友達を作るタイミングを失ってしまったという。「割り切って、図書館や東急東横線白楽駅前のコーヒーショップでひたすら読書していた。でもこれまでに読んだ作品が創作の種を植え付けてくれたと思います」と振り返る。雌伏の時期? を養分に、今後も作品の花を咲かせてもらいたい。

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