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古今亭志ん輔さんに聞く 「楽しむ」って実は難しい

K-Person | 神奈川新聞 | 2021年7月11日(日) 13:00

 ふわり、と楽しげな足取りで高座に登場した瞬間から会場全体を緩やかな空気で包む。横浜にぎわい座(横浜市中区)での独演会「志ん輔三昧(ざんまい)」は今年で9年目だ。「横浜にぎわい座のお客さんは素直で優しいから、楽しくてついしゃべり過ぎちゃう」と笑う。

 6月12日に開催された会では、まくらで「何でお酒を飲んじゃいけないのよぅ」とこぼし、まん延防止等重点措置で「野毛での一杯」を我慢している観客たちをどっと沸かせた。この日のネタは、たんかが圧巻の「大工調べ」と、お酒を飲む様子が愉快な「試し酒」。明るく滑らかな語り口で物語が始まると、愛すべき登場人物たちにたちまち魅了されてしまう。8月の独演会では「馬の田楽」「駒長」「船徳」を披露する予定だ。

「志ん輔三昧」8月14日午後2時開演、全席指定3200円。チケットは横浜にぎわい座、電話045(231)2515

 高校生時代、当代随一の人気を誇った古今亭志ん朝師匠の「火焔太鼓」を見て「この人の弟子になる」と決めた。「師匠そのものになりたいというくらいほれ込んでいた。一挙手一投足似ていたんじゃないですかね」。2001年に志ん朝師匠が63歳の若さで急逝すると「自分も63歳で死ぬんだ」というつもりで落語に取り組んだ。

 筋肉トレーニングを日課にし、酒宴でも会話をしないなどストイックに修業に励む日々を過ごしたが「得ることもあったけど疲れちゃいました」と苦笑いする。「高座で突然声が出なくなることもあった。今思うと、精神的に追い詰められていたのかもしれません」

 ある時の高座で師匠が「降りてきた」ことがあった。「肩のあたりで『もっとポンポンいけよ』『ここは落ち着けよ』と緩急を付けてくれて」客席は大盛り上がり。「あれは何だったんだろうなあ」と懐かしそうに目を細める。

 現在67歳。師匠の享年を越え「今は、お客さんが心地よくなる楽しみ方を自分もしていこうと思っているんです」と柔らかい笑顔で明かす。しかし毎日更新しているブログからは、喉のメンテナンスに細心の注意をはらい、その日の落語の出来をシビアに振り返るプロフェッショナルとしての信念が伝わってくる。

 二つ目専門の寄席・神田連雀亭に関わるなど後進の育成にも尽力するが、現在の若い落語家に話が及ぶと「声もこなれていない、ペラっとした古典落語が多いでしょう」と厳しい表情を見せる。「『楽しむ』って実は難しい。寄席で、自分を目当てに来たのではないお客さんも夢中にさせられるようにならないとね」

ここんてい・しんすけ
 落語家。1953年東京都生まれ。落語協会相談役。中央大学附属高校卒業後の72年、三代目古今亭志ん朝に入門。77年3月に二つ目昇進、85年9月に真打ちに昇進し「志ん輔」を襲名。寄席や独演会のほか、シェークスピア作品を土台とした創作落語に取り組むなど多彩な活動を展開している。84年から15年間、NHK「おかあさんといっしょ」にレギュラー出演、NHK-FM「名曲リサイタル」では司会を務めた。

記者の一言
 子どもの時、NHKの教育番組「おかあさんといっしょ」で見ていた憧れの師匠が目の前に…! 喜びと緊張を持って取材に臨んだが、水色のシャツを粋に着こなした師匠はとても気さくにおしゃべりして下さり、つい取材が長くなってしまった。日々の高座に誠実に向き合いつつ、人形浄瑠璃文楽と落語を融合させた「ぶんらくご」や、数台のカメラを駆使した無観客動画配信など次々と新しい挑戦を続ける姿勢に、「楽しんで仕事をする」ことの本当の意味を教わった気がした。

 
 
 

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