ボタン型の鍵盤の配列が不規則なことなどから習得が難しく「悪魔の楽器」とも呼ばれるバンドネオン。ドラマチックな音色に魅了され、10歳の時に楽器を手に取った。
タンゴのみならずクラシック音楽やジャズなどジャンルを超えてバンドネオンの可能性を追求し続け、今年でデビュー15周年。繊細ながらも色気と情熱を感じさせる演奏からは、人生を懸けて楽器と向き合ってきた姿勢が伝わる。
タンゴの歴史を変えたと言われるアストル・ピアソラの生誕100年となる今年は、ピアソラに特化した全国ツアーを展開中だ。
県内では24日、ミューザ川崎(川崎市幸区)にキンテート(五重奏)編成で登場し、「アディオス・ノニーノ」や「リベルタンゴ」などの代表作を演奏する。「生涯を通じて、さまざまな編成を試したピアソラがたどり着いたのがキンテート。長年共演しているメンバーなので、われわれのカラーも楽しんでもらいたいですね」と力を込める。
バイオリンの石田泰尚、コントラバスの黒木岩寿とは、17歳でオーケストラと初共演した際に神奈川フィルハーモニー管弦楽団の楽団員として出会って以来の付き合い。ギターの大坪純平、ピアノの山田武彦にも厚い信頼を寄せる。「全員トップレベルの技術を持ち、かつ貪欲に音楽を研究している。素晴らしい共演者に恵まれてきたことに感謝しています」
2008年の「国際ピアソラ・コンクール」では日本人初、史上最年少で準優勝を果たした。「ピアソラは僕をバンドネオンの世界に導いてくれた神様のような存在。知れば知るほど、演奏者・作曲家としての偉大さに圧倒されるし、聴くたびに心を揺さぶられます」。ダンスミュージックとしての性格が強かったタンゴを「聴いて味わう音楽」に進化させたピアソラ。生前は母国で「タンゴの破壊者」と言われ、襲撃されたこともあったというが「今ではアルゼンチンの人々の誇り。現在、世界中で愛されていることを考えると、その先見性に驚かされます」と尊敬の念を込めて語る。
ピアソラとも数多く共演していた、恩師のネストル・マルコーニは「どんなに難しい曲も自然体で演奏する、格好いい師匠」。今年は日本で共演することを計画していたが、延期になってしまったという。
「コロナ禍は、舞台で演奏する幸福感をかみしめる機会になった。今年は特に、音楽の楽しさをみんなで味わえる演奏を届けていきたいですね」
みうら・かずま
バンドネオン奏者。1990年東京都生まれ。小松亮太、ネストル・マルコーニに師事。2007年にデビュー後は国内の主要オーケストラとも共演を重ねる。15年、第25回出光音楽賞受賞。現在放送中のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の大河紀行で演奏を担当。3月には室内オーケストラ「東京グランド・ソロイスツ」としてのライブアルバム「ブエノスアイレス午前零時」を発売した。
記者の一言
「国内のバンドネオン奏者としては僕はまだまだ若手ですが、クラシックの器楽奏者には新星がどんどん出てくる。若い音楽家にはとても刺激を受けるし、負けないように頑張ろうと思いますね」と謙虚な三浦さん。朗らかな笑顔が、すてきな音楽仲間を引き寄せているのだろう。ミューザ川崎は、山下洋輔さんらと共演したジャズフェスティバルなどが印象に残っているという。「響きが素晴らしいし、いつもお客さまが温かく迎えてくれる。今後もご縁をいただけたらうれしいですね」
三浦一馬さんに聞く 神様に導かれ向き合う「悪魔の楽器」
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「三浦一馬キンテート 熱狂のタンゴ」24日午後2時開演、全席指定4800円など。チケットはミューザ川崎シンフォニーホール、電話044(520)0200 [写真番号:1152379]
ライブアルバム「ブエノスアイレス午前零時」 [写真番号:570637]
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