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深緑野分さんに聞く 共感呼ぶ最新作「楽して書きました」

K-Person | 神奈川新聞 | 2021年2月7日(日) 13:00

 最新作「この本を盗む者は」が好評で、増刷を重ねている。本嫌いの少女が、本にかけられた呪い“ブック・カース”を解くため、本の中の世界に飛び込んで本泥棒を捕まえる、というファンタジー。読書家の作者が、存分に楽しんでいる感じが伝わってくる。「語弊があるかもしれませんが、楽をして書きました」とほほ笑む。

 本が盗まれるとブック・カースが発動し、本の内容に応じて世界ががらりと変わる。神話のような世界や「なじみのない文体」だったというハードボイルド、SF的なスチームパンクの世界もある。

「この本を盗む者は」(KADOKAWA/1650円)

 自身が本の世界に漬かった最初の思い出は、小学1年の時。母が買ってくれた英国の児童文学作家ロアルド・ダールの「ぼくのつくった魔法のくすり」だ。「主人公がお鍋で魔法の薬を作るんですが、その青い煙が本から出てくるのが見えたと錯覚するくらい。夕飯に呼ばれても気付かないほど没頭していました」

 愛書家の共感を呼ぶ新刊だが、第2次世界大戦下の欧州を舞台に重厚な人間ドラマを描き、どちらも直木賞候補となった「戦場のコックたち」「ベルリンは晴れているか」の読者には意外な内容で、「新境地ですか」と聞かれることも。本人としてはどちらも「同じ筋力」を使い、むしろ「歴史物を書いている方が頑張っている」と明かす。細部まで目に見えるような丁寧な描写は、膨大な資料を「像が立ち上ってくるまでは自信が付かない」と読み込んだたまものだ。

 「自分が生きていない時代を書くことは、創作している自分じゃないと書けないテーマ」との思いがある。「人類の過去を、誰が語るのかは重要です。第1次世界大戦の経験者は、もうほとんどいないなど、当事者じゃない人間でしか、何があったのかを伝えられなくなっている。史実に自分の思惑を滑り込ませたい人はいる」と警戒する。

 自分たちに都合のいい出来事を美談に仕立てて思想統制に利用したナチスや、旧日本軍のプロパガンダの片棒を担いだ戦時下の新聞報道は言うまでもない。「われわれが歴史を語ってつないでいくとはどういうことか。ひねりを入れながら書いていきたいです」

ふかみどり・のわき
 作家。1983年、厚木市生まれ。2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題とした短編集「オーブランの少女」(東京創元社)でデビュー。著書に、「戦場のコックたち」(東京創元社)、「分かれ道ノストラダムス」(双葉社)、「ベルリンは晴れているか」(筑摩書房)。17年、神奈川文化賞未来賞受賞。近著の「この本を盗む者は」(KADOKAWA、1650円)は21年本屋大賞の候補作。

記者の一言
 「今は社会が厳しい状況なので、物語を読むことで、せめて心が軽くなればと思います」と深緑さん。物語の魅力に満ちた「この本を盗む者は」には、数十万冊の蔵書を抱える館が登場する。収集家が欲しがる希少本が詰まっていて「のぞいてみたい!」と思わせる魅力的な書庫だ。「身近に本の収集家が結構いて、マンションでも軽く2万冊はあるようなので、その10倍にすればいいかな」と設定したそう。自身では収集するつもりがなくても、本は増えていく一方という。記者の部屋も本棚からあふれた約200冊が床に積み上がっており、対処法を尋ねると「本じゃないものをできるだけ処分して、本棚を優先させる」。運動用の室内自転車は処分したと苦笑する。やっぱり本は手放せないもの、と共感した。

 
 
 
 

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