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【K-person】黒沢清さん
今こそかみしめる映画作りへの喜び

K-Person | 神奈川新聞 | 2020年10月25日(日) 12:00

黒沢清さん

黒沢清さん

 「まさかこの年齢になって受賞できるとは思っていませんでした」。第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞の吉報がもたらされた9月13日。急きょ開催されたオンライン記者会見で、戸惑いながらも率直な喜びを口にした。日本人の受賞は2003年の北野武監督以来17年ぶり。15年にはカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で監督賞を受賞しており、すでに日本を代表する映画監督として世界に認められていたが、今回の受賞で、もう1人の「世界のクロサワ」の存在を確固たるものにした。

 映画「スパイの妻」は、今年6月にNHKで放送された同名ドラマを、劇場版として再編集したもの。太平洋戦争前夜の日本で、激しい時代の波にのまれていく夫婦の姿を描く。日本軍の機密を告発しようとする夫に当惑するが、どんな状況下でも愛する人を守ろうと強く生きる主人公を蒼井優が熱演。ホラー作品を多く手掛けてきた黒沢監督ならではのスリリングな展開も魅力的だ。撮影場所やせりふにもこだわって時代の暗い空気感を再現し、ラブ・サスペンスの傑作に仕上げたが「今回の作品は娯楽映画だし、賞の対象にはならないと思った。コンペに出られただけで幸運を使い果たしたと思っていたんです」とその姿勢は謙虚だ。「紆余(うよ)曲折ありながらも映画を撮り続けてきたことで、素晴らしい脚本やスタッフと出会えた。長くやっていると幸運が訪れるんだな、と思いました」

「スパイの妻」は横浜ブルク13などで上映中。出演は蒼井優、高橋一生ら。

 東京芸大大学院映像研究科(横浜市中区)では教授として多くの後進を育成。「スパイの妻」の脚本を執筆したのは、教え子である濱口竜介さんと野原位(ただし)さんだ。「大学では、若い人たちには才能があるなと思わされることばかりでした。今回の脚本には僕も少しだけ手を加えましたが、8割は2人が作ったもの。良い生徒を持てたと思います」とほほ笑む。「映画作りにおいて、彼らと対等な関係になれたようでうれしいですね」

 数年前から普及していた、オンラインでの映画鑑賞はコロナ禍で一層広がったが「映画館で映画を見ることは『自分が何者かが分かる』特別な体験」と強く言い切る。「不特定多数の人たちと同じ映画を見ると、ある場面で自分だけが笑ったり、逆に笑わなかったりする。周囲と同じタイミングで盛り上がらないことが許されるのは映画館くらいしかない。これからも、映画館で見てもらうことを前提に映画を作っていきます」

くろさわ・きよし
 映画監督。1955年兵庫県生まれ。立教大学入学後、蓮實重彦に学びながら映画製作を行う。89年に初のメジャー作品「スウィートホーム」公開。97年「CURE」をきっかけに、ジャパニーズホラーの名手として海外でも評価を獲得。2015年「岸辺の旅」で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞、18年「散歩する侵略者」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。

記者の一言
 学生時代、映画評論家の故・梅本洋一さんの授業を受けていた。黒沢作品の魅力を熱く語る梅本さんからは、日本映画を良いものにしたいという思いが伝わってきた。  今回の作品が評価された理由として黒沢さんは「戦時中の日本を冷静に描いたこと」と「娯楽映画であること」が両立していることを挙げた。「こういう作品は今の日本には少ない」と。確かに近年は製作者の自己満足的な作品や娯楽要素だけの作品も多い。邦画界を豊かにするために、われわれも見る目を養わなくては、と思わされた。

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