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長塚圭史さんに聞く 演者と観客が共鳴 自分なりの色を模索

K-Person | 神奈川新聞 | 2020年9月27日(日) 13:00

長塚圭史さん

 劇作家、演出家、俳優。多彩な横顔とともに多数の舞台を手掛け、日本演劇界をけん引してきた。来春にはKAAT神奈川芸術劇場(横浜市中区)の芸術監督に就任予定。現監督、白井晃さんの後継として劇場に新たな風を吹かせる。

 「白井さんが僕に引き継ぐ意思を見せてくれたのはすごく大きなことだと思う。彼とは異なる色を出しつつ、地元に開かれた劇場を目指したい」と意欲的に語る。

 2018年に演出した舞台「セールスマンの死」を来年1月にKAATで再演する。「一度創った作品を繰り返し上演し、より多くの人に届けるのも劇場の使命」。「作品の深みが増す」という再演の価値を広めていきたいと話す。

 米劇作家アーサー・ミラーの代表作として知られる本作は、悲劇的な運命をたどる初老の父ウィリー・ローマンとその家族を描く。1950年代前後の米国を舞台に、競争社会や親子の断絶といった現代に通じる問題が立ち上る。

2018年、舞台「セールスマンの死」の演出をする長塚圭史さん(撮影・細野晋司)

 登場人物はそれぞれが満たされない思いを抱える。描かれるわずか2日の間に、「複雑な家族のありようや『老い』の切実さ、生きる意味と『死』へのイメージが広がります」。

 20代の頃から数多くの家族劇を創作した。「家族は圧倒的な他者。互いに愛するべきなんておこがましい。ところがどんなに離れていても簡単に切り捨てることができない、強固な鎖でつながっている」。その複雑さと向き合うことに、表現者としての醍醐味(だいごみ)を感じている。

 一筋縄ではいかない親子関係、在るべき父親像や母親像といった描写を通じて「きっと自分の家族にも置き換えられる」と語るその舞台は、観客の胸の内にあるあまたの記憶を引き出すものとなる。

 コロナ禍を契機に演劇の原点に返った。6月、所属する演劇ユニットの舞台公演は延期となったが、「立ち止まるわけにはいかない」と朗読のライブ映像を配信した。取り上げたのはチェーホフなどの古典から新作まで。少数ながら観客を入れての上演がかない、改めてその存在の大きさを肌で感じた。

 「ただそこにいるだけでいい。僕らが創る世界をその場で認めてくれる人がいるからこそ、演劇が成立するのです」

 KAATは年明けに開館10周年。演者と観客が共鳴し合うそんな空間を、数多く生み出したいと思う。「自分なりの色をどのように出せるか模索しています。鮮やかなスタートを切りたいですね」

ながつか・けいし
 1975年生まれ。劇作家・演出家・俳優。96年、阿佐ケ谷スパイダースを旗揚げし、作・演出を手掛けている。2008年、文化庁新進芸術家海外研修制度で1年間ロンドンに留学。帰国後の11年、ソロプロジェクト・葛河思潮社を始動。17年4月には新ユニット・新ロイヤル大衆舎を結成し北條秀司の傑作「王将」三部作を下北沢・小劇場楽園で上演。同年からKAATプロデュース作品に演出家として参画し、「作者を探す六人の登場人物」(17年)、「華氏451度」(18年/上演台本)、「セールスマンの死」(18年)、「常陸坊海尊」(19年)を上演。 近年の舞台作品に、阿佐ケ谷スパイダース「桜姫~燃焦旋律隊於焼後~」(作・演出・出演)、新ロイヤル大衆舎「緊急事態軽演劇八夜」(演出・出演)、「イヌビト~犬人」(作・演出・出演)など。俳優としても映画「シン・ウルトラマン」「海辺の映画館―キネマの玉手箱」「花筐/HANAGATAMI」、テレビ「サギデカ」などに出演。19年4月からKAAT芸術参与。

記者の一言
 演劇や舞踊など、何かしらの表現に携わる人の話は面白い。とりわけ独自の世界観を持っているがゆえに、自らの感性で語られるその言葉に魅了されていく。

 長塚さんもその一人だった。いや応なく迫る「老い」を前に、人の生きる意味がいかに変質していくか。今、この問いの答えを探りたいのだという。

 よく葉山に行く。夕暮れ時、海越しの富士山を前に足を止める人たちを見るのが好きらしい。その情景がありありと目に浮かぶ、何とも心に響くインタビューだった。

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