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【1964東京五輪】〜アーカイブズで振り返る神奈川〜
村長日記(37) 日本人ベリーナイス

連載 | 神奈川新聞 | 2020年10月24日(土) 09:00

 1964年の東京五輪。神奈川には相模湖のカヌー選手村と大磯のヨット選手村が設けられた。神奈川新聞では両村長が日々の出来事をつづった「村長日記」が連載された。五輪イヤーの今年、当時の日付に合わせてこの連載を再び掲載します。海外旅行が一般的でなかった時代、世界各国の五輪選手を迎える緊張や戸惑い、喜びなど臨場感あふれる描写から、1964年と違うもの、変わらないものが見えてきます。

 現代の観点では不適切な表現もありますが、1964年当時の表現、表記をそのまま掲載しています。(※)で適宜編注を入れました。

競技最終日、雨中行われた女子1人こぎカヤックの表彰式=1964年10月22日、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

痛いほどの握手と抱擁

相模湖選手村村長・松原五一

 名ごりの雨が、またもや降り出したらしい。さっきまでひびいていた歌声もどうやら静まってきたが、午前零時をとうに過ぎたというのに、往来の足音は絶えない。まださめやらぬ興奮のままに雨のなかを歩き回っているのであろう。

カヌー競技観戦のため相模湖漕艇場を訪問された常陸宮ご夫妻。相模湖駅前から漕艇場までの道では、地元の人たち約1万人が出迎えた=1964年10月22日、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

 三日間のレースも終え、長い間の緊張から解放されたこよい、知事招待のレセプションは、定刻前から明るい笑い声に包まれていた。内山知事ご夫妻そろっての出席に一段とにぎわいを見せ、さして広くない食堂とクラブを埋めた人は約三百人。いつもはそろいのブレザーコートで活躍している女子職員や女子通訳の諸君も、今夜ははなやかな和服姿で出席して花を添えた。

 あいにくの雨のため、計画していたプログラムの多少の変更はやむを得ないが、三角くじやバンド演奏、日本趣味の模擬店は人気をよんで予期以上のにぎわいを見せた。

相模湖選手村でのレセプションで、突然、2人こぎカナディアンのソ連・ヒミチ選手(左端)から金メダルを掛けられ、驚きながらポーズをとる内山岩太郎神奈川県知事(右から2人目)。右端は保坂周助神奈川県オリンピック事務局長、左から2人目は松原村長=1964年10月22日、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

 ソ連選手の金メダルを知事さんが胸にかけて、大ぜいの拍手にこたえられたのは、この夜の圧巻であった。後半はダンスパーティーに模様替えした感があり、各国入り乱れて、ステップを踏むところもない。彼らの楽しそうな踊りは見ている方がうれしくなる。

 午後十時、何回目からのホタルの光でやっと解放したが、なお去りかね、杯を傾け談笑するものがあって、いつ果てるともなきありさまだった。会の半ばにフィンランド選手が村を去って行った。(二十二日)

 一夜あければ……。夜来の霧雨をついて出発するルーマニア選手団を送るため、身じたくもそこそこにとび起きてゲートにむかう。みな名ごり惜しげにバスの中に消えてゆく。

 この村の生活でもっとも親近感をもったイタリアのグラッペリー氏が別れぎわに堅い抱擁と左右のほおにキスをしてくれた。別れが惜しくてにじみ出る涙を抑えるのに精一杯だった。ソ連のペトロー氏からもしびれるような堅い握手、抱擁とセップン。われわれ日本人には慣れないこんな習慣にも少しのいや味も感ぜず、肩にまわした両の手に一杯の力をこめたものだった。

艇を木箱に収め、本国に送る準備をする選手ら=1964年10月、相模湖町(現在の相模原市緑区)与瀬

 一団、一団、静かに村を去って行く。

 “サヨナラ”

 無情の雨の降りしきるなか、彼もわれもことばにならぬことばをかわし、手を振り合って別れを惜しむ。

 “さようなら”“さようなら”

 いつまでもごきげんよう。

 スポーツに栄光あれ。


世界は一つ、国境なし

大磯選手村村長・馬飼野正治

 ヨット競技の閉会式が終了して二日目。平和だったわが村もあわただしさが目立ってきた。江ノ島へ艇のこん包にいくもの、しこたま買いこんだみやげや荷物を整理するもの、退村するもの、一杯飲んで最後の気えんをはくつわ者など、さまざまである。こういう時にこそわれわれはますます冷静にことをはこび、最後のしめくくりをしっかりつけなくてはならない。

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